複雑系の世界

メラニー・ミッシェル著 "ガイドツアー 複雑系の世界 − サンタフェ研究所講義ノートから" の紹介です。
複雑系に興味がある方にはめちゃくちゃ面白い本です。

ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから

ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから


複雑系の研究が解明を目指しているのは、
"中央制御装置の恩恵なくして、どのように無数の比較的単純な実体が、パターンを形成し、情報を利用し、場合によっては進化し学習する、一つの集合的な全体へと自己を組織化していくか"
である。
本著は、この複雑系が解明を目指す内容に沿って、ガイダンスしてくれる。

本著は、5部構成となっている。
第1部 背景と歴史
複雑系の研究分野が発展してきた背景と歴史が書かれています。
熱力学、カオス、フラクタル、遺伝学、チューリングマシンが取り上げられています。
第2部 コンピューター上の生命とその進化
遺伝的アルゴリズムが紹介されています。
この章で紹介されている"進化するおそうじロボット「ロビー」"は、世代を経るごとにお掃除上手になっていきます。ロジックは非常に単純ですが、賢くなったロビーがとる戦略は、筆者も驚くほどのものです。
第3部 拡張される計算
単純なモデルによって複雑系が描写できることの、いろいろな例があげられています。
この章では、筆者の研究成果である、類推するコンピューターである、コピーキャットも紹介されています。
第4部 ネットワーク思考
この章ではスケールフリーと生物におけるスケーリングについて書かれています。最終的には遺伝子のふるまいまで言及されています。
第5部 結論
ここでは、複雑系の結論ではなく、これからの複雑系の研究に対する期待が語られています。
複雑系の世界は、まだ結論に達していない未開の分野なのです。

さて、それでは本著の内容に沿って、複雑系の世界に飛び立って行こう。

■ カオスはいかにして発生するのか
本著では、ロジスティックモデルが紹介されている。
ロジスティックモデルからエッセンスを取り出した数式は極めて単純だ。
Xt+1 = R・Xt(1−Xt)
Xt+1はXtの次のステップを意味する。
本著では、島に生息するウサギをロジスティックモデルを使って、世代を経るごとにどのように繁殖していくかを例としてあげている。
上の数式を、繁殖のモデルとしてではなく純粋な数式モデルとして、Xtの値とRの値を設定していくと興味深い結果が得られる。
Rの値を2にするとXtの値が、0<Xt<1 のどのような数値を取ろうが、いずれXt+1は0.5へ収斂してしまうのだ。
Rの値を2から徐々に増加させていき、Rが3を越えるとXt+1は、周期振動へ収斂し行く。
さらにRの値が3.569946になるとXt+1は、全くランダムな振幅を繰り返すのだ。
ここにカオスが誕生する。

■ カオスの中の秩序
カオスの中にも法則性がある。
これも驚きだ。
本著では、次の二つをあげている。
まずは、周期倍化によってカオスに至る過程があるということ。
先に書いたが、Rが3を越えて増加すると周期振動が発生し、その周期振動が漸次倍化し、Rが3.569946になるとカオスが発生するのだ。
カオスは、周期倍化が無限化した状態なのである。
二番目は、周期倍化が発生するまでのRの差分の比が、一定の数値に収斂することである。これは、ファンゲンバウム定数と呼ばれ、具体的にはおおよそ、4.6692016である。
Rが3を越えると周期倍化が発生し、倍化するまでのRの間隔は次第に狭まって行くのであるが、差分の比はファンゲンバウム定数を越えることはない。
越えた先はカオスの世界となるのだ。

さて、今回はここまでとします。