新ネットワーク思考

アルバート=ラズロ・バラバシ著”新ネットワーク思考”の紹介です。

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く

非常に楽しく読めました。
オイラーグラフ理論の礎を築き  スケールフリー・モデルに辿りつくまでの経緯や、スケールフリー・モデルがネットワーク(インターネット)の世界以外にも応用できることが書かれています。
極めつけは、スケールフリー・モデルが”ボース=アインシュタイン凝縮”とも相関性があることです。物性の世界にも通ずるモデルってことです。物性の世界だけではなく、細胞の世界や生物の進化ひいては経済活動にも適用ができてしまうという、まさに本の副題の通り、”世界の仕組みを読み解く”モデルなのです。

冒頭オイラーの研究活動が書かれています。オイラーは晩年は白内障の手術を受けますが、手術が失敗して失明してしまいます。そのような逆境にもかかわらず、膨大な研究結果を口述で残しています。このパワーには驚かされます。正直、オイラーの精力的な活動には頭が下がります。
オイラーが解き明かした”ケーニヒスベルクの橋”問題がグラフ理論の源になっているくだりは、感動を覚えました。ちょっとした人びとの疑問に対し、ノードとリンクという新しい簡素化した思考により、疑問を解決したのです。この思考結果が、後世のグラフ理論へと大きく花ひらくのです。シンプルな理論が複雑な現象を解明することになるのです。
著者もオイラーに対し、次のような賛辞を送っています。

オイラーの得た結果はいろいろな意味で本書のメッセージを象徴している。それをひとことで言えば、「グラフやネットワークの構造は、この世界を理解する鍵だ」ということだ。
ネットワークがいかに形成されるかという問題に初めて取り組んだ論文は、ポール・エルディシュとアルフレッド・レーニイにより発表されました。これが、ランダム・ネットワーク理論の礎となりました。ちなみに、エルディッシュ、レーニイ共にハンガリー出身の数学者です。著者のバラバシもハンガリー出身です。
6次の隔たり”の着想を初めて活字にした、カリンティもハンガリー出身です。カリンティは作家です。1927年に『同じものはひとつもない』という短篇集の中の「鎖」という作品で、この着想を披露しています。作品の中では、「今日、地球上の人びとはかつてないほど互いに接近し合っている。」といった男が、自分の5人の知人を介して、地球上のすべての人物を鎖でつなげてみせるといいます。男は、ノーベル受賞者にも、そしてフォードに勤める一人の労働者に対しても5人以内で鎖をつなげてみせます。
おいらも、この5人以内で鎖をつなぐという思考実験を試してみました。
例えば、おいらと菅総理(今あまり人気がないですが)はつながるのか。おいらの近所に、その知人が市議会議員をしている人がいます。市議会議員の方はある政党に属していますので、その党首とつながります。党首は当然菅総理と知り合いです。これで、おいらと菅総理がつながりました。

さて、カリンティの『同じものはひとつもない』が出版されて40年後、また鎖がつながり始めます。ハーバード大学のミルガムが「六次の隔たり」概念を論文で発表します。ミルガムの父親は、ハンガリー出身でアメリカに移住しました。
本著のバラバシもハンガリー出身ですし、”ハンガリー”で鎖がつながっていくことが、どこか運命めいています。

バラバシはフリースケール・ネットワークを提唱したのですが、これはどのような概念なのでしょうか。非常に分かりやすい図があるので、本著から引用します。(ネットで検索して引用したものです。)

従来のネットワーク理論をもとにするとウェブの世界は左側のような構造をもつはずでした。実際にウェブのネットワーク構造を解析した結果は、右側のような構造になっていました。これを スケールフリー・ネットワークと呼んだのです。
右側の図ってどこかでみたような図ですね。そうです、ロングテールの図と同じです。ロングテールもスケールフリーなのです。
左側の図もよく見かけます。正規分布図ですね。物性のばらつきは左側の図に支配されます。
それでは、ランダム・ネットワークとスケールフリー・ネットワークは何が違うのでしょうか。スケールフリー・ネットワークには、”成長”と”優先的選択”が内在しています。この”成長”と”優先的選択”により、スケールフリー・ネットワークが形成されていくのです。
ポイントを本著から引用します。

ネットワークは成長と優先的選択という二つの法則に支配されるという現実がみえてきた。個々のネットワークは小さい中核部分から出発して、新たにノードを付け加えることで成長する。そして新しいノードは、たくさんのリンクを獲得しているノードを優先的に選択するのである。
ここから導かれるのは「早い者勝ち」の論理であり、”金持ちはもっと金持ちに”なるという現実です。マイクロソフトがいいモデルです。これは、ちょっとショックですね。こうなると貧乏人はいつまでたっても貧乏人なのでしょうか。
いや大丈夫です。バルバシもこの辺は気になっていました。本著では、次のように書いています。
私がGoogleに魅了されたのは、なによりもまず、この検索エンジンがスケールフリー・モデルの基本的予想である「早いもの勝ち」の原理を破っていたからである。
それでは、Googleはどうやって「早い者勝ち」の原理を破っていったのでしょうか。
バルバシは”適応度”という要素を、スケールフリー・モデルに取り込みました。
ノードがいつネットワークに加わったと関係なく、適応度の高いノードは、適応度の低いノードをあっというまに抜き去ってトップに躍り出るだろう。
よかったよかった。適応度があれば、逆転可能です。

本著では、インターネットのリンク構造を分析しています。その結果、下のようなインターネット大陸が出現しました。
巨大な中央大陸を中心にIN大陸、OUT大陸が隣接し、IN大陸やOUT大陸には半島が存在します。また、これらの大陸と孤立した島が存在します。
中央大陸は、GoogleやYahooやニュースサイトのような巨大なウェブサイトです。中央大陸のなかではノード(ドキュメント)が互いに連結(ノードをつなぐ経路が存在する)されているので検索が容易です。一方IN大陸やOUT大陸はリンクが一方向性なので、各大陸の中での検索は困難です。それに逆戻りができません。島は完全に孤立しており、中央大陸からはたどり着けません。
これは、ネットワークに方向性が存在するための結果であり、本著ではこの構造が、ウェブナビゲーションの可能性を制約していると指摘しています。島や半島には全ウェブ・ドキュメントの4分の1が存在し、決して無視できるものではないのです。
ただ、リンクが一方向性を持つ限り、この分断された大陸構造は存在し続けます。これは残念ながら大きな課題のままです。


さて、本著では、このスケールフリー・モデルを生命や経済にも適用することを試みています。あのアルカイダにも言及しています。
本の副題の通り、世界の仕組みを読み解いていきます。