イマココ(空間認知の科学)

コリン・エラード著。”イマココ”の紹介です。

イマココ――渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学

イマココ――渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学

空間認知科学という切り口から、人間というものは何か、に迫っています。内容は多岐に渡り、興味津々な内容となっています。人間とは何かを考える、いろんな発見やヒントがちりばめられています。
前半は、動物の(鳩や蟻やウミガメ達)空間認知のメカニズムが書かれています。これと対比して、人間の空間認識のコアは何かに迫ります。
後半は、人間が人間の空間認識によって、どのような行動メカニズムが発生してるのかを書いています。そしてそれは、環境破壊をもまねいてしまったと。

ちょっと気になる文を抜き出してみます。
Part1
◉”イヌイット語では物体の位置と方向が、文法構造の一部として必要とされるのだ。”
しょっぱなから俄然興味がわきます。イヌイット語の3語文を英語であらわすと、20語にもなるそうです。イヌイット語は、位置的な情報が一つの言葉の中に含まれているため、このようになるということです。言葉の発生は、人々が住む環境に大きく影響されて発生していることを示しています。確か何かのCMで、日本で”雨”を表す言葉がたくさんあるといったものがありました。辞書で調べると、雨の強さや降り方による表現で20種類、季節に関する表現で21種類もあります。言葉っておもしろいですね。
◉”空間に物語を付与できるのは人間のすぐれたすぐれた頭脳のおかげである。”
◉”偏光によってできる空のコンパスによって、アリは自分が曲がるべき方向を知ることができるが、巣からどのくらい離れているかを知ることはできない。”
アリ以外も伝書鳩の話も書かれています。昆虫や動物は、どうやって自分の巣から遠く離れても自分の巣にきちんと帰れるのか、まったくもって不思議です。アリの目は偏光を感知できる、鳩は地球の磁力を感知できるというと、もっともらしいのですが、何故自分の巣が”ココ”であると分かるのでしょうか?非常に謎です。偏光を感知したり、磁力を感知できれば、どの方向に向かっているかは分かりますが、自分の巣に戻るには、自分の巣の場所を記憶していなければなりません。自分の巣が”ココ”であることを、どのように記憶しているのか、摩訶不思議です。
◉”ひとつは自分がいまどこにいるのかわかっていること、第二に、どこへ向かうか分かっていることだ。”
◉”私たちが周囲の世界を縦と横に並べるくせがあるのは、空間の性質を比較する対象としてもっともはっきりした基準が、重力(垂直)と水平の線だからだ。”
人間の感知能力には、重力の影響が潜在的にあるような気がします。
◉”私たちは空間を感じるのではなく、組み立て直しているのだ。”
これが、人間の空間認識の本質です。
◉”いま自分がいるところから抜け出し、目を閉じて他の場所にいるところを思い描くという能力は、おそらく人間しか持っていないだろう。”
◉”自意識に不可欠な要素は空間を抽象化する能力である。”
これは、逆にいうと、自意識できることが人間でもあるということです。自意識とは、周りの環境から独立した”自分”といった存在があることを認識することです。単純にいうと、鏡をみて、鏡に映った姿が、”自分”であると分かるということです。昆虫や動物には、この自意識はありません。(というか、あるかも知れないが、それを伝えることはできない。でも、たぶんないと思う。)


Part2
◉”人間は、視界(View)と見晴らし(Vista)と全景(Scene)を用いて、非常に効率よく空間を分析することができる。”
◉”彼(クリストファー・アレグザンダー)の博士論文は『形の合成に関するノート』として出版されており、長年コンピュータサイエンスを学ぶ学生の必読書となっている。”
これを読みたくなったが、日本で訳された本は、どうも絶版のようです。原本は購入可能(Amazonです)なようです。
◉”人の脳がおもに視覚に頼るよう特殊化され、空間の景観や見晴らしは把握できても、目に見える部分と見えない部分をつなげるのは苦手であるということだ。”
人間の空間認識は、視覚による方向に進化発展してきた。
◉”ジェイコブズの主張の中心をなすのは、何度も繰り返される「人が人を引き寄せる」という言葉である。”
◉”現在のフェター・レーンには企業のオフィスとサンドウィッチショプがならんでいるが、昔からの目印や曲がりくねった部分が残り、当時のストリートの精神がいまでもかすかに息づいて、人の心に影響を与え続けている。”
◉”住民たちに広くインタビューを行い、彼は都市には主要な五つの要素があると提唱した。その五つとは、パス(道)、ノード(結節点)、リージョン(区域)、バウンダリー(境界)、そしてランドマーク(目印)である。”
この要素をうまくサイバースペースにもいかせないものか。
◉”統合係数を示した地図のおもしろいところは、こうした地図は空間の中での私たちの行動を予測するのに、おおいに役立つということだ。”
◉”自分の経験を、ある場所の正確な「位置」情報と、忘れかけていた「土地」への深い憧れを満たせるように思える。”
人間の記憶は、”場所”によって呼び覚まされる。田舎の家の近くにある一本の木が、小さい頃の思い出と感情を呼び覚ます。
◉”ソーシャル・ネットワーキングの功績は、ユーザをネットワークの中である種のノードとして扱い、他のノードとのつながりを透明化し、そこにる人全員、あるいは選ばれた少数が読み取れるようにしたことだ。”
◉”ユビキタス・コンピューティングが人間と環境の関わりを根本から変える可能性についての考察で、ワイザーと協力者のジョン・シーリー・ブラウンは、コンピュータ機器によって私たちの生活に「カームテクノロジー」がもたらせると述べている。”
Calm Technology(穏やかな技術)
◉”前方や中央にでかでかと掲げられたヘッドラインではなく、横からそっと情報を伝えてくれる機器の魅力について、ワイザーとシーリー・ブラウンは次のように述べている。「”周辺”は、なじみのある細かな無数の情報に楽々と私たちをつないでくれる。世界とのこうしたつながりを、私たちは”ロケーテッドネス”と呼んでいる。これは”周辺”が私たちに与えてくれる、何より重要な贈り物だ。」”
この”横からそっと情報を伝えてくれる機器”とは、まさにCalm Technologyでもある。この”さりげなく情報を伝える”ことが、これからも重要になるのでしょうね。
◉”こうしたテクノロジーが本物の人間関係を破壊するのを防ぐために、私たちができるのはせいぜい、バーチャル世界の力と限界の両方を学び、理解するための行動を、いますぐ起こすことだ。”
◉”リースが述べているとおり、何らかの規制がなければ、グローバリゼーションによって得をするのは、労働者に最低限のの給料しか払わず、環境に配慮せず、工場を自由に動かせる者だけになりがちだ。大きな利益と引き換えに、多くの人間が犠牲になるのだ。”
◉”今や、ジオキャッシングは地球規模で行う大がかりな宝探しとなっている。”
これおもしろそうです。
◉”こうした個人的ソングラインの重要性は、目、耳、皮膚、鼻で感じた感覚を完全に調和させ、これまでに無かったほど深く、自分が現実の場所にいると気づかせてくれるということだ。”
◉”さらに、もしサウンド・ガーデンが、自然環境を反映するようにつくられたらどうなるだろう?さらに大きな空間とのつながりを感じるための助けとして、何らかの役割を果たすかもしれない。”
このサウンド・ガーデンという発想もいいですね。例えば、自然環境に応じて、音楽が奏でられる。危険な区域だと警告音が聞こえる。
◉”増加しすぎた、あるいは意味のない地理的フットプリント。安く大量生産される製品へのあくなき欲求。そして地球上どの土地でできたものであろうと現金さえあれば手に入ることができるということができるという権利意識。こういったものすべてが、環境破壊を招く要因となっている。”
◉”今は過去のどんな時代より、人間関係がが物理的法則から解放されているのだ。”
◉”私はこの本で、人間がこれほどの技術的発達を成し遂げた根底には、特異な方法で空間を処理できる能力があると主張してきた。だがこの能力は同時に、自分たちが住む地球を守るという意識を薄れさせ、今やこの星を危機にさらしている。”


補論を濱野智史氏が書いています。こちらも一読に値します。
◉”レッシグは、人間の行動や社会秩序をコントロールするための方法として、次の四つを挙げている。規範(慣習・道徳)、法律、市場、そしてアーキテクチャ(物理的な環境を設計することで人間の行為を規制する方法)である。
◉”空間設計を通じて人々の行動を制御するアーキテクチャは、法とは違って、あらかじめそのルールを事前に内面化する必要はない。”
◉”ニコニコ動画は、いうなれば「仮想時間」型のアーキテクチャということができる。”
◉”①情報空間の設計は、人々の行動を制御する強力な手段となりうる。②アーキテクチャは、近代社会を支えてきた規律訓練型権力に代わる、「環境管理型権力」として台頭しつつある。③インターネット上では、「仮想空間」や「仮想時間」の形態を実現している。”
◉”つまりARが可能にするのは、「それまで現実から遊離していた仮想空間上のコミュニケーションが、リアル空間上に重ね合わされるようになる」という事態なのである。”
セカイカメラを例にとれば、実空間に情報を埋め込むと同時に、私がココにいたことを空間(=場所)に記憶させることだ。(セカイカメラを最初に使ったときに、何故か犬が散歩の途中でおしっこでマーキングすることを思い浮かべてしまったのは、おいらだけでしょうか。)この、空間に情報が埋め込まれていることを利用したサービスとして、この辺はおいしいイタリアンレストランがあるよ、とかさりげなく教えてくれるサービスもありですね。