「つながり」を突き止めろ!

”「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワークサイエンス”(安田雪著)の紹介です。

「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書)

「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書)

最近”ソーシャル・ネットワーク”といったキーワードが気になり、購読した次第です。
この本を読んで感じたのは、人間のつながりというのは単純であると同時に、複雑性をもつということだ。
その複雑性も、可視化することによって(これがネットワーク・サイエンス)、人間社会がどのよに成り立っているのかを浮き彫りにすることができる。ソーシャル・グラフとはこの可視化された繋がりである。
本文中で紹介されている、”対ゲリラ戦略と米軍マニュアル”のキモは、関係を探れ、といった極めてシンプルなものだ。関係を探れとは、見えない関係を可視化する作業である。
同じく”電子メールから浮かび上がる業務遂行ネットワーク”では、この分析を”組織のレントゲン”と称している。いいえて妙である。電子メールのやり取りの内容を分析していくと、誰と誰との繋がりが大きいのか、が浮き彫りにされてくるのだ。この電子メールの分析は、組織がどのように活性化しているのか、また硬直化しているのかを検証する方法にも応用できそうで興味深い。

mixiでの分析が紹介されている”SNSの人脈連鎖”も興味が尽きない内容だ。
章の冒頭で著者はいう。”人間の友人・知人関係のつながり方は、いまだによくわからないことが多い。関係は目に見えないからだ。”
この目に見えない関係を可視化することに、著者は執念を燃やす。
mixiの分析結果から、SNSもスケールフリーであるという結論にたどりつく。「スケールフリー」とは、極端な勝ち組が少数、中堅どころがそこそこ、圧倒的大多数は負け組という、分布の性質を指す。SNSは、丁度人間社会のミラー構造になっている。SNSの分析は、プライバシーが関係するため慎重に扱う必要があるが、人間社会の繋がりを分析する上では、かなり有効であろう。
著者は、”良き人間関係には抑止力がある”と記しているのだが、これはSNSにも言えるのだろうか?この辺の分析もして欲しいところである。
スモールワールドの実験結果も紹介されている。
17人の実験では、二つの集団が、意外と一箇所でブリッジされている。著者が言うように、同じ講義を一学期間過ごしたにもかかわらず、人間関係が網の目のようになっていると思いきや、意外と希薄である。希薄であるが、ネットワークとしては繋がっている。
この結果からすると、ある集団とある集団をブリッジ(橋渡し)するのは、限られた人間である。人間のネットワークは意外と脆いのかもしれない。この脆さを補強しているのが、現在のインターネット社会なのかもしれない。

また、人間の関係認知の限界として、情報の伝達は6ステップまでが限界とみえる結果となっている。この”6”という数が、どうもマジックナンバーらしい。
mixiの友人・知人連鎖を調べた結果では、5人程度の連鎖を経ればmixi内の9割のユーザにたどりつける結果となっている。ここにも”6”というマジックナンバーが存在する。何故”6”なのかは、未だに不明とのこと。統計学的なアプローチ等で、このマジックナンバーの正体が分からないものであろうか。

人間はいくつかの集団に属している。思いつくだけでも、会社(同僚、上下関係、他の部署、関連会社、取引先etc)、趣味、家族、地域、同級生、同郷、親友、飲み友達etc etc、の集団があり、その集団の中に、それぞれのつながりがある。こう書きだしてみると、人間社会には、膨大な繋がりが存在していることに気づく。ただ、人間の関係認知に限界があるため、日々の生活の中では、意識せずにいるということなのかもしれない。
自分に関連する繋がりだけでも膨大であるが、さらに友人に思いを馳せると、友人が付き合っている友人が誰なのかはわからない状況に気づく。いつも一緒にいれば別だが、友人がだれと関係をもっているのかは、不透明だ。
同じ集団内であれば、その関係性を把握できているが、友人が所属する別の集団については、まったく関係性を把握することはできない。人間の関係性とは、同一集団の中でお互い顔を突き合わせている一面しか理解しあえていない。別の集団に属している顔は、ちょうど月の裏側のように計り知れないものなのだ。そしてその先に繋がっている人間関係も闇の中なのである。

最後になるが、本著のあとがきが抜群に良い。”橋を燃やす”と題された、6ページ足らずのものであるが、抜群によいのだ。”橋を燃やし”自分を再構築する意気込みが伝わってきます。また、”時間の先に夢をみるか、空間の先に夢をみるか。”といった一文がある。この考え方にも新鮮味をおぼえました。
個人的な意見であるが、残念ながら”橋を燃やす”ことにより、人間の関係を完全に絶ち切ることはできない。記憶がある限り、それは難しいものである。物理的な関係を断ち切ったとしても、記憶を絶ち切ることはできないからだ。
もうひとつ言いたいことがあった。著者の安田さんにエッセイとか書かせたら、結構読者がつくような気がします。光文社にはこの本の続編の出版を望みます。