ソーシャルメディアとは。

”新ソーシャルメディア 完全読本”(斉藤徹氏の著作)の紹介です。今のそして今後のソーシャルメディアについてビジネス的観点から概説した著作です。ソーシャルメディア・ビジネスの全般について、ポイントをついて、理解しやすいようにうまく書かれています。

まず、ソーシャルメディア・ビジネスと従来のEコマースの違いとは何なのでしょうか?(注:これ以降、” ”でくくられた文章は、本著作からの引用です。)
今までの小売業やEコマースでは販売実績を分析をし、次の一手を模索するわけですが、その手法は”「何がうれたのか」という過去の情報”を元にしています。それに対し、ソーシャルメディアでは、”「なぜ売れれているのか、これから顧客は何を欲しいと感じているのか」という現在と近未来の購買が可視化”されると本著では説いています。

現代人は、インターネットに流通する膨大な情報のシャワーの中にいます。
この膨大な情報のシャワーの中で、”生活者は、信頼できる情報を渇望している”のですが、”人は今ある情報のうちわずか”しか理解することばできないのです。(注:本著では、総務省が発行した情報流通センサス報告書を引用しています。2005年の時点で、選択可能な情報量に対して、消費可能な情報量は4%としています。流通する情報量は増加する一方ですが、人間が消費できる情報量には当然限界あるのす。)

この膨大な情報シャワーのなかから、いかに有効な情報を選択すればいいのでしょうか?
本著では、ニールセンの2010年度の調査結果のグラフを引用していますが、それをみると、購買の意思決定に際し最も信頼する情報源のトップ3は友人、家族、ネットでの商品レビュー、となっています。
これは何を意味しているかというと、”検索上位に表示することで商品を購入してもらう時代から、生活者の評価によって商品や企業が選ばれる時代への移行期”にあることを示しているのです。
そこで注目されているのが、ソーシャルグラフというものです。本著では、ソーシャルグラフを人間関係や行動履歴のデータとしています。

本著では、ソーシャルメディア以外に、さらにコトラー氏のマーケティング3.0を取り上げています。簡単にまとめると、次のようになります。
マーケティング以前:独占的な供給
マーケティング1.0:製品中心の時代(企業側が一方的に「どのようにして販売するか?」)
マーケティング2.0:顧客中心の時代(企業が顧客に対して「どのように継続購入してもらうか?」)
マーケティング3.0:人間中心、利用者(顧客が)がパートナーになる時代(企業は生活者に「どのように製品開発や販売などに協力してもらうか?」)
現在はマーケティング3.0の鳥羽口にあり、今後マーケティング3.0の意味することがますます重要になるでしょう。

本書では、ソーシャルメディアを活用し成功した企業の例がいくつも取り上げられています。
ただ、共通するのは、ソーシャルメディアとは、あくまで利用するツールであって、単にソーシャルメディアに参加すれば何も考えずに成功するわけではないのです。
例えば、ザッポス型経営の特徴がピックアップされていますが、その真髄は、”社員が提供するのは「忘れ難い体験」”であるのです。この「忘れ難い体験」を、ソーシャルメディア(またはインターネット)をうまく利用して、ストレートに顧客に提供ができるのです。
グルーポンの成功の秘訣もしかりです。
米国では、クーポンの内容も非日常的なユーザ体験の提供に主眼が置かれています。一方日本は、特売りチラシの域を出ていない傾向が強く、感動や共感には乏しいのです。
グルーポンは、お店と利用者との交流の場を提供し、取引が終わってもクローズしません。利用者とお店が直接対話できる個別のオンラインフォーラムが用意されているのです。
また、コールセンターが顧客との接点として重要視されれています。よくあるような、メールでの問い合わせのみではなく、きちっとリアルな時間のなかで、電話で顧客一人ひとり対応するのです。
テキストとしての顧客ではなくリアルな存在として顧客に対応しているのです。
(注:ただし、最近話題になった『おせち問題』は、グルーポンにより販売された商品によるものでした。『おせち問題』で検索すると多くのニュースがヒットします。ことの成り行きは、これで十分把握できます。こんな時、検索は便利ですね。ここで注意したいのは、確か、TVの報道のなかでも、『ネットの闇』とか称して報道していたものもありましたが、今回の問題は『ネットの闇』ではなく『人間の闇』なのです。今回の問題は、ネットビジネスだから発生したものではなく、いかなる商品販売にも起こりうるケースです。信用を裏切ってしまったのは、販売元の人間の行動にあるからです。グルーポンの顧客を大事にする姿勢は上で書きましたが、各国でビジネスを立ち上げる際には、この姿勢をさらに徹底させる必要があります。)

終章の”ソーシャルメディアが導く未来”は、著者のエッセンが書かれています。
Googleは”検索エンジン”の雄ですが、ソーシャルメディアとどう違うのかを表す端的な例が書かれています。
マイネット・ジャパン代表の上原仁氏の次の言葉を引用しています。非常に分かりやすいです。
”「グーグルに『ただいま』と送ると『ただいまの検索結果』が返ってくる。ツイッターに『ただいま』と送ると『おかえり』が返ってくる」”
処理しきれな膨大な情報シャワー”の今にあって、求められているのは情報の量ではなくて、質である。最も信頼できる情報は何か?誰からの情報なのか?が重要であると著者は説いています。
グーグルが目指しているのは、”すべての形式知(文書化された知識や情報)を集めて体系化し、誰でも使えるようにする”ことである。それに対し、ソーシャルメディアは、”暗黙知という、文書化できない知識や情報”である、としています。
で、ちょって気になったのは、この『暗黙知』というキーワードです。先日のブログライフログ入門を紹介したのですが、やはり暗黙知という言葉がありました。

ライフログ入門

ライフログ入門

ブログにも『多くの項目に内在する暗黙知をどうかたちにするのか、暗黙知をどう浮かび上がらせるのかが、ライフログの最終目標なのかもしれません。』と書きました。
インターネットというものが、検索を中心とした情報を抽出する時代から、人間の行動に直接影響を与える時代になっているのです。このため、ビジネスをする上でも、インターネットを利用して人間の暗黙知を浮かび上がらせることが、今後さらに重要になるのではないでしょうか。