ビットからアトムへ

クリス・アンダーソン著"MAKERS"を読了しました。

MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

久しぶりに興奮して読めた著作です。
本を取る前は、3Dプリンターのことが主体的に書かれているのかと思っていましたが、違います。
これから訪れるであろう製造業の未来が描かれています。
クリス・アンダーソン氏は、"FREE"の著作で一世を風靡しましたが、本著を読むと、"FREE"は単なる序章であったことがわかります。
"FREE"は、現実世界の情報をインターネットというインフラに蓄積することによって実現した世界です。
情報のインプットにより構築された世界です。
"MAKERS"は、インターネットに蓄積された情報を現実世界の現物にアウトプットさせる世界です。
"FREE"+"AKERS"によって、インターネットの世界と現実世界が連結したと言えるでしょう。
本著では、これを”ビットからアトムへ”と称しています。

冒頭にこう書かれています。
"マルクスの言葉どうり、製造手段を支配する者が、権力をもつのだ。"
"FREE"では、"情報"を万人に解放しました。"MAKERS"では、"製造手段"を万人に解放するのです。
これだけでも、どきどきしてしまいますね。

本著では、クリス・アンダーソン氏自身が立ち上げたベンチャーが、成長して行く過程が描かれています。
この過程を読むと、クリス・アンダーソン氏は、インターネットの特質をうまく利用していることが分かります。
クリス・アンダーソン氏は、航空ロボットビジネスを立ち上げる際に、コミュニティを立ち上げます。コミュニティでは、設計データをオープン化します。
このオープン化というのが非常に重要で、本著では、"オープンソース化するだけで、僕たちは無料の研究開発機能を手に入れた。"と書かれています。
また、このオープンソース化に対する報酬形態も重要で、本著では、"ピラミッド型のご褒美"を提案しています。
これもうまいですね。コミュニティに集積された設計データを利用して、うまくビジネスがいった場合の報酬を貢献度に応じて報酬に段階を設けるというものです。下はTシャツから、上は株式まであります。
これだったら、コミュニティに参加しているメンバーも納得するのではないでしょうか。
同じようなビジネスを立ち上げる際には、参考になりますね。

オープン化については、さらに重要なことが語られています。
クリス・アンダーソン氏は、「ビル・ジョイの法則」を引用します。「ビル・ジョイの法則」とは、サン・マイクロシステムズの共同創業者であるビル・ジョイの言葉です。おいらも初めて知りましたが、次のような言葉です。
『いちばん優秀な奴らはたいていよそにいる』
これは、何を意味しているかというと、"取引コストの最小化を優先すると、もっとも優秀な人材とは一緒に仕事ができない"ということです。
ここに、企業組織の矛盾と限界があります。
企業の形態を取る限る、企業は応募した人材しか採用できないのです。
逆に、オープンなコミュニティは、全世界の人材が参加することができるのです。
オープンなコミュニティを作ることが、かなり重要だってことですね。

本著では、中国の模造品製造業者のことも書かれています。
ちょっと面白いのは、模造品製造業者がオープンソースの組織構造と似通っていると指摘している点です。
確かに、中国って模造品を瞬時に生み出しますよね。ちょっとしたウワサや、正規品が発売される前や直後に似たような製品を市場に流通させますよね。
困ったもんだと思いながらも、何であんなに簡単に素早く物を作れるのか不思議でした。本著を読んで謎が解けました。
模造業者間でオープンに情報を共有して、小規模であるがゆえに効率的な小規模生産ができる生態系ができあがっており、固定費を最低限に抑えて、市場に素早く製品を投入しているのです。
本著では、この模造業者のモデルと「軽量イノベーション」のモデルが共通しており、ポイントを以下のように抽出しています。
・ネットワークに参加する。
・問題解決者に報いる。
・とことん解放する。
・先手を打つ。
こう見てくると、中国の製造業者も侮れないところがあります。

本著のエピローグは、"製造業の未来"と題されています。
クリス・アンダーソン氏が予想する未来は二つのパターンです。
一つ目は、"参入障壁が低く、イノベーションは速く、起業家精神の高いモデル。"
二つ目は、"商売っ気がなく、まったく儲ける気のない素人がコンテンツの大半を作る世界。"
二番目はかなり辛辣な意見です。クリス・アンダーソン氏は、今のインターネットの状況にまだまだ満足していないようです。
クリス・アンダーソン氏が望むのは、一番目の世界です。
本著では、"僕なら、一番目のモデルに賭ける。"と書いています。
おいらも、一番目のモデルに賭けます。

最近思うに、大企業だかと言って、常にイノベーションをおこすことができるわけではなく、ごく一部の大企業しかイノベーションをおこすことができないのではないでしょうか。
特に、日本の大企業はイノベーションを起こすのは難しいでしょう。日本の大企業は国内インフラの受注に精を出すのではないでしょうか。
これからは、小回りのきく、中小企業群が活躍すべき時代と思います。また、そこから多くのイノベーションが生まれるべきと考えています。