ポストPC、そしてポストJobs

前回のブログでアプリをリリースしレビュー待ちと書いたのですが、その後リジェクトされ、リジェクトに対する理由のやり取りとアプリの修正に時間を取られ、またまたブログの更新が滞ってしまいました。
やっとアプリを修正し、再度レビュー待ちの状態となり、ちょっと落ち着いたのでブログの再開となります。
アプリリリースまでの顛末は、また後日書きたいと思います。

さて、待ちに待った"インサイドアップル"が出版されました。

インサイド・アップル

インサイド・アップル

ベールに包まれていたアップルの"組織"に、焦点をあて論じた本です。
今までの多くの本は、アップルというよりは、ジョブズ氏に焦点がおかれていましたが、本著はアップルの会社組織に焦点をあてています。
アップルとは、誠に不思議な会社で、その会社組織は一体どの様な形態をとっているのか、不思議で不思議でたまりませんでした。
本著では、全てのベールが取り払われるわけではありませんが、その一端を覗き見る事ができます。

■ 組織形態
アップルは、事業部制ではなく機能別の組織形態をとっている。
企業が大きくなると事業部制をとるのが普通だ。事業部がプロフィットセンターとなり、その責任を負う。これはこれで重要だが、次第に事業部間の壁ができて、事業部の自己保全機能が優先され、会社一丸でことに当たると言うことができなくなる。開発する製品も共通化が難しくなり、次第に製品群が枝分かれていく。
アップルの様に、会社の目標達成のために、リソースを一極集中させることができなくなる。
例えば、本著ではiPhoneの開発があげられている。アップル(ジョブズ)は、iPhone開発のために、Macのソフトウェアエンジニアも駆り出させている。
事業部制だと、こうはいかない。
事業部制だと、事業部は事業部存続にリソースを集中させることになる。結局、会社全体で無駄なリソースが増加し、かつ社内で競合が始まってしまうのだ。

■ 製品開発
アップルの製品開発の原動力は何なのだろう。
本著では、次のように述べている。
"アップルのほとんどの製品の起源は、たんにそれを作りたいというアップルの願望である。"
ジョブズ氏がもっとも頑固なユーザであった。最初のコンピュータもしかりiPhoneしかりだ。ジョブス氏は、それが欲しかったのだ。

もう一つ、アップルと言えば、デザインを抜きに語れない。
"アップルのデザイン哲学の鍵は、「デザインが製品の出発点」"であるということだ。
アップルでは、デザインを起点にサプライチェーンとエンジニアの部隊が動き始める。これは、ANPP(Apple New Product Process)と呼ばれ、ANPPの目標は、何と「科学の部分を自動化して、芸術に集中すること」だ。
サプライチェーンとエンジニアの責任者は、材料調達から製造管理に至るまで責任を持つ。
ただ全てを所有するわけでもない。例えば製造ラインを所有するのではなくて、すべての段階をコントロールするのである。

アップルが製品開発に対して考えていることをうまく表現した、もと従業員の言葉がある。「アップルはユーザの体験のことばかり考えている。収入の最大化は考えていない。」
"ユーザの体験"とう観点は、本書でもたびたび登場する。
余談だが、おいらのアプリがリジェクトにされたのも、この"ユーザの体験"という観点からであった。リジェクトの理由として、技術的な観点ではなく、真っ先に"ユーザの体験"という言葉があったのには、驚かされた。

■ ポストJobs
本著では、アップルを"効率性と革新性を兼ね備えた最強の企業"としている。クックとジョブズがその両輪を果たした。クックのおかげでジョブズも革新性のある製品開発に集中できたのだ。

最初は、ちょっと心配だったが、フォックスコンの仕事環境問題に対する対応、中国進出のための着々とした行動をみると、ティム・クック氏は意外と上手くこなしている。
次の言葉は、クック氏の特質をうまく表現している。
「彼は大げさなことは言わないが、控えめに言うこともない。彼の話を聞いていると、"こに男は真実を語っている"と思うんだ。」

クック氏は、今のところ、アップルをうまく束ねている。

ただ、本著では、アップルが直面する問題点を二つあげている。
まずは、ジョブズの世界観がアップルの経営陣に十分刷り込まれているか。
次に、ジョブズの威光を借りずに自ら事業を遂行できるか、である。
最初の懸念は大丈夫であろう。今の経営陣は、ジョブズ氏と長年仕事を共にしている。
問題は、二点目だ。
ただ、これもおそらく10年先とまでは言わないが、5年先まではアップルの戦略は決定しているであろう。
アップルが目指すのは、コンピュータをより人間に近づけることだ。
マルチタッチのUIによって、KB入力でしかコンピュータと会話できなかったことを、コンピュータに直接触れることでコンピュータと会話ができるようにした。
Siriは、まさに日常生活の中でコンピュータと会話することを可能にしてくれた。
Siriは、まだβ版だ。Siriは、これからパーソナルアシスタントの機能をまだまだ拡充していくであろう。
その先にはジェスチャーによる認識やMacのデザイン変更もあるでしょう。
iCloudもまだ完成系にほど遠い。iCloudは、パーソナルアシスタント機能と連携するだろう。
そうだ、忘れてならないのは、iBooksAuthorだ。こちらは教科書的なアプローチが主眼となっているが、新しいメディア形態としての可能性も十分に秘めている。
そうだ、リキッドメタルもある。アップルはどんな新しい素材を製品化するのだろうか。
こう考えると、アップルにはまだまだやって欲しいことがいっぱいある。
ジョブズもそれを願ってるはずだ。
ポストJobsとは、Jobs亡き後のことを心配することではなくて、Jobsが実現したかったことを成し遂げて行くことなのだ。