不可能を可能にする男、ジョナサン・アイブ

ジョナサン・アイブは、誰もが不可能と思えることも可能にするらしい。

その実現するまでの凄まじさが、この記事からうかがえる。

five years ago, Apple (AAPL) design guru Jony Ive decided he wanted a new feature for the next MacBook: a small dot of green light above the screen, shining through the computer’s aluminum casing to indicate when its camera was on. The problem? It’s physically impossible to shine light through metal.
五年ほど前、Appleのデザインの教主であるJony Iveは、次期MacBookについて考えていた。カメラが動作した時に、アルミのケースを通して、表示画面の上部に小さな緑のライトを点灯させたいと。
問題は何か?光が金属を透過するのは物理的に不可能なのだ。

で、どうしたかというと。

Ive called in a team of manufacturing and materials experts to figure out how to make the impossible possible, according to a former employee familiar with the development who requested anonymity to avoid irking Apple. The team discovered it could use a customized laser to poke holes in the aluminum small enough to be nearly invisible to the human eye but big enough to let light through.
アイブは、製造と材料の専門家を呼び、不可能を可能とする方法を考えさせた。これは、開発に通じた、匿名のもと従業員の話だ。そのチームは、解決策を見つけ出した。カスタマイズしたレーザーでアルミニウムに小さな穴を空けるのだ。穴は、人間の目にはほとんど見えないが、光が透過するには十分な大きさだ。

この記事には、解決策を見出すまでの過程は書かれていない。それでは、どの様な過程を経て解決策にたどり着いたにだろうか。
先日のブログにも書いたが、Appleの製品開発に対するアプローチとして、"Simplicity"がある。
これは、物事を簡素化し本質に迫るアプローチだ。このアプローチを活用すれば、解決策にたどり着ける。
金属は光を通さない。これは、常識だ。
でも、すべてのものが光を遮断するかと言うとそうでもない。
日常の場面でも、光が物質を透過する現象はいたるところに存在する。
例えば、出窓に置いたランプをカーテンで覆ってもランプの光は遮断されることなく、部屋の中に柔らかい光をとどけてくれる。
カーテンの構造を理解すれば簡単だ。カーテンは、一見遮蔽物であるが、光は通せる。理由は細かい網の目構造になっているからだ。
カメラ好きな人であれば、ピンホールカメラをすぐに思い浮かべるだろう。針の穴の大きさでも、景色を透過させてしまうほどなのだ。
目に見えない小さな網の目や穴でも、光は十分に透過してくれるのだ。
アルミニウムに光を透過させる、といった不可能にも思えることも、"Simplicity"のアプローチをとれば、解決策にたどり着けるのだ。

記事はさらに続く。

Applying that solution at massive volume was a different matter. Apple needed lasers, and lots of them. The team of experts found a U.S. company that made laser equipment for microchip manufaycturing which, after some tweaking, could do the job. Each machine typically goes for about $250,000. Apple convinced the seller to sign an exclusivity agreement and has since bought hundreds of them to make holes for the green lights that now shine on the company’s MacBook Airs, Trackpads, and wireless keyboards.
解決策を量産規模で実現するのは、また別問題だ。Appleはレーザーを必要とする。それも大量の数だ。チームの専門家達は、マイクロチップ製造用のレーザー装置を作っている米国の会社を見つけた。そのレーザー装置に、ある程度手を加えれば、うまく行きそうなのだ。機械の値段は、だいたい25万ドルといったところだ。Appleは、その会社と独占契約を結び、数百台を買い付けた。それがいま、MacBookAirやTrackpadsやwireless keyboardsの、あの緑に灯る光になっているのである。

さて、皆さんもそう言われてみると、ワイヤレスキーボードやMagicTrackPadの右上あたりが、BlueTooth認識時の通信に緑の光が点滅していることを思い出すでしょう。
実際どんな感じかと言うと、おいらのワイヤレスキーボードを撮影してみました。
点灯していない時は、こんな感じです。よーくみるとまるく穴の影が見えます。この丸い穴の影が、さらに小さな穴の集合体になっているのでしょう。

でも、この丸い穴の影も普段はまったく気付きません。
次は、点灯した場合です。ケースの表面が光っているようにも見えて、よくよく考えると不思議です。

どの位小さい穴なのか、見た目は全く分かりません。
ウェブで探したら、分かりやすい写真がありました。こんな感じです。多数の穴が空いているのがよく分かります。


それでは、ジョナサン・アイブは、なぜそこまでこだわったのか。
普通の設計であれば、表示用のLEDは、筐体(ケース)に穴を空けて、そこにLEDを埋め込みます。非常に単純な発想ですし、表示機能としてのLEDであれば、表示が分かりやすい様にするために当然の設計です。

でもアイブはそれを許さなかった。
統一されたフレームデザインに、LEDのために穴を穿つことを、アイブのデザインセンスが許さなかったのだ。
そのこだわりが、不可能を可能としたのだ。