ジョブズの人間像を浮き彫りにした、『ジョブズ伝 上巻』

スティーブ・ジョブズ伝 1 を読了。

スティーブ・ジョブズ I

スティーブ・ジョブズ I

Steve Jobs 1は、予定通り10月24日発売された。当日は仕事が遅かったが、何とか閉店時間前にすべりこんで、多摩センター駅啓文堂で購入した。30冊ほど山積みされていたが、二日後には完売していた。

Steve Jobs 1 は、ジョブズの子ども時代からピクサー時代までのことが描かれている。
ピクサー時代までのジョブズの言動については、これまで多くの書物が発刊されており、本著でもその枠を大きく越えることはない。
本著で焦点を当てているのは、ジョブズという人物がどのように形成されたかだ。
ジョブズが著者に伝えた言葉から、この伝記に対するジョブズの姿勢が伝わってくる。すべてをオープンにして、自分を語りたいという想いが伝わってくる。
「これは君の本だ。僕は読みもしないよ。」
「僕は、人様に誇れないこともたくさんしてきたよ。でも、"これだけは外に出せない秘密"なんてものはないんだ」

本著を読むと、やはり、ジィブズ自身が養子として育てられたことが、ジィブズの人物形成に大きく影響してしていることがわかる。
それは、当然のことでもあろう。
本著では、デル・ヨーカムの言葉が紹介されている。
「なにかを作るとき、すべてをコントロールしようとするのは彼の個性そのもので、それは『生まれたたときに捨てられた』という事実からくるものだと思う。」
この養子であったこと、そしていつも父性を追い求めていたことが、Appleを去る際の奔走劇にも影響していたことが分かる。

ただ、ジョブズも人の子である。養父といえども、父としての教えがジョブズに大きく影響しているのである。ジョブズは、語る。
「きちんちするのが大好きな人だった。見えない部品にさえ、ちゃんと気を配っていたんだ」
これは、以前のブログでもふれたが、黒澤明の姿勢と全く同じである。ジョブズの細部に対する強いこだわりは、養父の影響なのだ。
子供の頃から興味を示す対象や考え方が、大人になっても変わらないという普遍性がある。これは、各人の小さい頃の思い出と、今自分にある興味とを比較してみるとよい。意外と子供の頃に興味を惹かれたことが、大人になっても続いているのだ。
もうひとつ、同じようなエピソードが語られている。
「コンピュータ端末をはじめて見たのも、おやじに連れられて行ったエイムズ研究所だった。すっごく気に入ったよ」
これは、おやじという存在意義かもしれない。おやじは、時たま大人の世界や社会の最先端の世界に連れ出してくれたりもするのだ。
また、この時期の描写を読むと、地域の環境が、子供の思考形成に大きく影響することを感じる。
ジョブズやウォズニアックが子ども時代を過ごしとき、シリコンバレーは軍事関係の会社が設立ラッシュの時代でもあった。ジョブズやウォズニアックが住む近所には、エンジニアがごろごろいたのだ。

ジョブズAppleを去ることになる経緯は辛いものがある。ウォズニアックもこの時離職していたんですね。
自分の理想とするコンピュータを作るために悶え苦しみ、葛藤している一人の若者が、ジョブズだったのです。
この悶え苦しむ葛藤、自分の理想とする製品が思うように生み出せない葛藤は、NeXTの時代まで続きます。
おそらくこの時期のジョブズの葛藤は、ジョブズの思いに社会やコンピュータ技術が追いついていないことによるものだろう。

この葛藤の時代に、ジョブズは伴侶とめぐり合う。
ジョブズは、ローリーン・パウエルと出会い救われたのだな、と感じる。
家庭と子供を持つことによって、養子としのコンプレックスを開放することができたのではないだろうか。
この頃、ジョブズの肉親探しの旅もクライマックスを迎える。実の妹である、モナ・シンプソンとの出会いが、ジョブズに一妙の灯りをともしてくれるのだ。実の妹に会った時の喜びが、ジョブズの言葉の端々から感じ取れるし、モナに送った三宅一生のパンツスーツのエピソードはほほえましい。

本著を読むと、ピクサー時代の重要性が伝わってくる。
ピクサーに対する思い入れは並大抵ではない。なぜそこまでピクサーに対する思いが強いのか、ジョブズの次の言葉で分かる。
「技術を示すだけでなく芸術性まで表現できていたのは僕らの映画だけだった。マッキントッシュがそうだったように、ピクサーもそういう組み合わせを作るところなんだ」
Liberal Arts & Technologyの融合を体現できたのが、ピクサーであったのだ。

さて、他にも気になる描写があり、ピックアップしてみる。
あらためて、マッキントッシュ発表の時期から、秘められたジョブズの思いがあることに気づいた。
"マッキントッシュは自己紹介するはじめてのコンピュータとなった。"
これは、今のSiriの機能にも通づる。人間とコミュニケーションするコンピュータを、20年以上まえからジョブズは夢に描いていたのだ。

今の学生に対する不満も、ちらりと語られている。
「いまの学生は理想論を考えることさえしない。哲学的な問題についてじっくり悩んだりせず、ビジネスの勉強に打ち込んでいるんだ」
この言葉は、学生のみならず、ビジネスの現場に立つ者にも、心に突き刺さる言葉である。
たしか、ジョブズは、次のビジネスフィールドとして教育現場をターゲットとしていた記事もあったけ。

さてさて、ここまでが第一巻の感想である。
第二巻は、ジョブズAppleに復帰し、怒涛の如く突き進む時代を描いている。
現時点で第二巻は、二日後の発売となっている。
とにかく待ち遠しいの一言である。