Appleの流儀

ちょっと、積ん読状態だったのだが、リーアンダー・ケイニー氏の"スティーブ・ジョブズの流儀"を読んだ。

スティーブ・ジョブズの流儀

スティーブ・ジョブズの流儀

ケイニー氏は、"Cult of Mac"のメイン執筆者でもある。
Jobs本は、あれこれと読んでいたので、あまり期待していなかったのだが、非常に楽しく読めました。
2008年の出版なので、iPhone発売直後までの状況しか描かれていないが、内容的には十分満足のいくものであった。
原題は、"INSIDE STEVE'S BRAIN"である。邦題は、これを"スティーブ・ジョブズの流儀"と訳しているが、内容からすると、"Appleの流儀"としてもいいのではないだろうか。
本著では、ジョブズ以外のスタッフにもきちんと焦点を当てている。ジョブズあってのAppleであるが、Appleを支えているのはジョブズだけでは無いことが、本著を読んでよく分かる。

■ ジョブズの仕分け
ジョブズは、Appleに復帰した直後、Appleの仕分けを実施した。これは、Appleとは何なのか、Appleとして残すべきものは何なのかを突き詰めた選択ともいえる。
この仕分けで残ったものは、ブランド、顧客の二つである。マネジメントは入れ替えた。マイクロソフトとはAppleが生き残る為に暫定的に手を組んだ。クローンビジネスはすっぱりと切った。サプライヤーも競合させた。パイプライン(開発製品)を徹底的に簡素化した。このパイプラインの簡素化は、重要だ。ジョブスは語る。「四つの製品プラットフォームが整えば、それで十分だ。」とまで言っている。この四つとは、「コンシューマー」、「プロフェッショナル」、「ポータブル」、「デスクトップ」のマトリックスからなる4製品である。この決断によって、開発の資源が集中されたことになる。開発が効率化され、かつAppleとしてのコアとすべき製品が、くっきりと浮き彫りされたことになる。Appleの目指すべき製品のゴールが明確化されたのだ。

この製品を絞る、という行為はできそうでできない。ユーザの要求に応えようとして、製品のラインナップを増やしてしまうのだ。製品のラインナップを増やし、選択肢を多く与えることが顧客満足につながると勘違いしてしまうのだ。

■ Appleに受け継がれている文化
本著では、Appleに脈々と流れる文化の代表として、HIG(ヒューマン・インターフェイスガイドライン)をあげている。これは、どのアプリにおいても一貫したユーザー体験を確保する為のバイブルだ。この一端は、iOSの、開発ガイドラインである"iOSヒューマン・インターフェイス・ガイドライン"にもうかがえる。このガイドラインを読むと、Appleが製品開発をするにあたり何を重要と考えているかがよく分かる。Appleの戦略の一端も覗き見ることができる。興味がある方は、一読をお勧めする。
おそらく、iOS以外についても多くのガイドラインがあるのだろう。

■ ジョナサン・アイブ
本著では、ジョナサン・アイブについても触れられている。
アイブにも、徹底したユーザー視線がある。初代iMacについて、ジョナサン・アイブが語った言葉。「取っ手の良さはそこにあります。見れば目的がわかるんですから。」
これは、梱包箱を開梱して、iMacが現れた瞬間、次にユーザが何をすればいいのか、すぐにわかる様に工夫したものだ。

ジョナサン・アイブのチームも小規模だ。十人あまりの工業デザイナーで構成されれいる。
アイブのデザインプロセスで重要なことは、次の3点だ。「深いコラボレーション」、「相互交流」、「コンカレントエンジニアリング」
チームの協調性を非常に重要視している。ジョブズのスタンスも同じだ。

アイブが非常に素材にこだわっていることが、本著を読んでよく分かる。
アイブの素材に対するこだわりも並大抵なものではない。日本の北部地方の町に住む金属成形の達人を訪ね、教えを請うたこともしている。

■ Appleの広告戦略
本著では、Appleの広告戦略の重要性についても触れている。 
著者は、"ジョブスにとって広告はテクノロジーについで大切なものだ。"とまで言っている。
どうもジョブズは、スカリーの広告戦術を学んだようだ。スカリーは、ペプシの広告戦略として、「人もうらやむライフスタイル」を表現した広告をつくった。
Appleの広告戦略もこれを踏襲していることがよくわかる。
スカリーの言葉にも注目すべきものがある。「マーケティングとはつまるところ演劇である」と断じている。ジョブズは、これも踏襲した。ジョブズのプレゼンを観れば納得がいこう。

■ Apple直営店
Apple直営店の目指したもの、それは「最高の購買体験」である。販売を主眼とするのではなく、購買体験を主眼とするストアなのである。
店舗構想を練り始めた時のビジョンは、「人生を豊かにする」だそうだ。それは、Appleのビジョンでもある。
本著では、直営店開店までの試行錯誤が描かれている。ビジョンを実現化するまでの苦闘が描かれている。
それと、従業員にどうしたらインセンティブを持たせられるかも書かれている。この辺はうまいなーと感じた。

最近のこの記事を見て欲しい。Apple直営店の売り上げ効率は、いまや全米No.1だ。

ジョブズの仕分けで残った、"ブランド"と"顧客"を体現した場が、Apple直営店なのである。

■ iPod誕生秘話
Appleは満を持して、一気にiPodを製品化したことが分かる。
今までどうしてAppleウォークマンの二番煎じとなりかねないiPodを製品化したのか、今一つぴんとこなかったのであるが、本著を読んでやっと分かった。iPodは、デジタルハブ構想の一環であるのだ。デジタルライフを満喫する為のデバイスなのである。
iPodの開発経緯を読むと、通常の開発からみれば結構やっつけで仕上げたなあと思えてしまう。HWの基本回路は外部から購入しているし、ソフトもコアの部分は外部から調達している。ただ、仕上げはかなりシェイプアップさせているが。
ちょっと驚きなのは、スクロールホイールのアイデアは、あのフィル・シラーが発案者とのことだ。これは、ちょっと驚き。
iPodという製品名も、一度はジョブズにお蔵入りにされそうになった。
まあ、そうは言ってもiPodの成功が、Apple躍進の第一歩となったのだ。

さて、本著は、他にもティム・クックの手腕もきちんと書かれている。
ジョブズイノベーションについての考えも分かります。
この本は、意外と良書です。