終わりが始まりを告げる.

Steve Jobs氏がAppleのCEOを辞任した。後任は、Tim Cook氏だ。
突然のことなので、ちょっと驚いたが、これまでに二度、Cook氏がCEOを代行したことを思えば、いずれ来るべき事が今来たのだという思いの方が強い。
突然の様に受け取られる辞任であるが、おそらくJobs氏にとっては、だいぶ前から計画されていたことなのであろう。
2004年に膵臓ガンを患った時から、後継者をどうするか、誰にAppleを託すか、AppleのDNAをどの様にして残すかを考えていたに違いない。

さて、Cook氏とは如何なる人物なのか。
Cook氏は、1998年にAppleに入社している。この時期は、今から想像できない程Appleが苦しんでいた時期だ。この時期にAppleへ入社したことにも驚かせれる。2005年には、COO(最高執行責任者)に就任している。Jobs氏が健康を害したのが2004年なので、Jobs氏はこの時期から既に、Cook氏を後任とする思いがあったのだろう。
Cook氏の実務面での手腕については、この記事でも触れられている。Cook氏がAppleに入社した1998年は、iMacが投入された年だ。前年の1997年のグロスマージが、19%であったものが1998年には、一挙に25%まで改善している。その後も改善は続き、2010年には39.4%という数値に達した。これもCook氏の手腕によるものとしている。今のAppleは、500億近いキャッシュを持っているが、これもひとえにCook氏の功績とも言える。

Cook氏は外見からは窺えない、何か強靭な意思を持っている様だ。
Appleの元社員がCook氏と初めて会った時の印象を語っている記事がある。
Cook氏の印象を、"Tim Cook is one of rare people who stop and think before speeking."と語っている。非常に落ち着いた、思慮深い印象を窺わせる。
また、この記事では、母校のオーバン大学でのスピーチビデオを掲載している。このビデオを観ると、Cook氏の信条は極めてシンプルだ。スピーチでは、リンカーンの言葉を引用し、役割をこなす為にひたすら働くこと、そしてチャンスを待つことを重要なこととしている。
Cook氏は、この信条を貫いたことになる。

Jobs氏は、AppleのCEOを辞任したが、Appleを去るわけではない。会長職として、Appleの経営に関わっていく。ただし、Appleの製品の細かい部分にまでは、従来と同じよな関わりは緩めていくのであろう。
今年のWWDCで、ポストPCを全面に打ち出した。自ら理想のPCを創り出し、そして今や自らポストPCを謳っているのだ。iPhoneiPadそしてiCloudとポストPCのレールは概ね敷かれた。後は、このレールを突き進んでいくだけだ。それに、優秀なスタッフも全て残っている。これであれば、安心だ。Cook氏が優秀なスタッフを上手くまとめ上げてくれるだろう。
今後、Jobs氏は、Appleの枠を越えた活動を開始するのではないだろうか。
Appleの枠組みの中で、やりたいことはほぼやり尽くしたのではないだろうか。ただ、Appleという会社を背負う立場では、どうにもできないことにも直面したであろう。
Jobs氏は、AppleでPCを生み出し、ポストPCの時代を宣言しAppleでのCEOに終わりを告げた。
そしてこれからは、Jobs氏にとって、Appleの枠を越えた活動の始まりなのである。
終わりが始まりを告げるのである。