iCloudの先にあるもの

本田雅一氏の「iCloudクラウドメディアの夜明け」を読む。

この時点で、iCloudの重要性に着目しているのには、注目に値する。
iCloudは、意外と重要なターニングポイントなのだ。秋にiCloudがリリースされて、iCloudを利用しているうちに、多くにユーザがiCloudの重要性に気付き始めるだろう。
本著は、iCloudの重要性をメディアの観点から論じている。ただ、おそらく、iCloudは、メディアの観点のみならず、クラウドを前提としたライフスタイルを提供する、記念すべき第一歩となるだろう。

さて、本著は、副題の"クラウドメディア"の到来を論じることが主目的となっているのだが、Appleの戦略に関する貴重な記述もある。
Appleはヒット製品を連発し、遂に時価総額で世界一になってしまった。キャッシュも500億ドルも保有している。これは、単に時流に乗っただけの結果とは言い切れない。一朝一夕では築けないものであるし、短絡的な戦略(流行りのキーワードに便乗しただけの製品戦略)では到底成しえないものであると感じていたが、本著では驚きの事実が語られている。
その事実とは、「スティーブは、40〜50年という長期にわたる事業計画をもっており、現在のアップルはその計画に沿って順調に運営されている」ということだ。
それに、この長期計画は、サンタクルーズのアップル復興会議から始まっている、となればさらに驚きである。
ただ、このような長期計画があってこその成功であることは、非常に納得がいくものである。

さて、話を本題に戻そう。
本著では、クラウドがもたらす利用者体験の革命の一つとして、"提供されるデータやプログラムなどのバリューが、常にその人にとって最新であるということ"としている。すなわち、"一意の情報をクラウドの中にひとつだけ持てばよい"ということだ。これにより、例えばアプリであれば、アプリのバージョン変更は自動的になされ、利用者は意識しなくとも常に最新のバージョンを利用できる。動画であれば、利用する機器やネットワークのスピードに応じて配信速度を自動的に最適化して配信する。音楽であれば、運用ルールが変更になれば規定のタイミングで一斉に変更可能であるし、コーデックの方式もその時の情勢に応じて、逐一変更することができる。それも利用者がまったく意識しなくていいのだ。
このクラウド化の流れの中で、消費者の意識は、さらに"所有から利用へ"と変化していくとしている。

メディアのクラウド化の大きな流れとして、本著では最新の米国事情が書かれている。ネットフリックスが映画業界、放送業界を変えてしまおうとしているのだ。それぞれのビジネスモデルをも変えようとしているのだ。
ネットフリックスは、アップルも無視できない存在となっている。アップルはiTunesで映画の配信も提供しているが、ネットフリックスの利用者拡大に今後どの様に対処していくのか気になるところだ。AppleTVが成功する為には、コンテンツの配信も鍵を握っているが、ネットフリックスとは別の付加価値をAppleTVにもたらすことができるだろうか。

本著では、"アップルはiCloudの先に、どんなビジョンを用意しているというのだろうか"と、問いを投げかけている。
おいらが思うに、iCloudの先には、Personal Cloudが待ち構えている。個人の購入したコンテンツやアプリや、利用するアプリのデータはすべてクラウド化される。デジタル化されたあらゆるものが、クラウドの中に集約されていく。当然購買履歴もクラウドの中にログされていく。ちょうど、ライフログクラウド化されていくようなものだ。このPersonalなデータがクラウド化されることによって、個人の嗜好が分析されていくだろう。ただこれは、本人の同意が必要ではあるが。個人の嗜好が分析されることによって、あらゆるシチュエーションで個人の嗜好に合わせた情報が提供されることになる。

iCloudは、本格的なパーソナルアシスタントの入口でもあるのだ。