赤ちゃんは不思議

赤ちゃんは不思議である。
赤ちゃんの不思義は、人間の不思議でもある。
赤ちゃんの不思議が分れば、人間の不思議も分るわけである。
そんな思いもあり、この本を手に取った。

赤ちゃんの不思議 (岩波新書)

赤ちゃんの不思議 (岩波新書)

"赤ちゃん学"の難しいところは、赤ちゃんが対象物をどの様に感じているのか?どの様に認識しているのか?の判断を、対象物に対し注視している時間で判断している事だ。
赤ちゃんは、言葉で意志表示できない。赤ちゃんの時の記憶を、成人になってから思い出すこともできない。そこに、"赤ちゃん学"の難しさがある。
そんな難しい"赤ちゃん学"であるが、昨今の研究の成果から、赤ちゃんは、従来の常識以上に対象物を適確に認識していることが分ってきた。
本著では、最新の研究成果をもとに"赤ちゃん"の実像に迫っている。
最初に驚かされるのは、赤ちゃんの好き嫌いの判断の中に、既に利他的行動を好む実験結果があることだ。赤ちゃんの行動を見ると、自己本意のかたまりの様に思ってしまうが、それは赤ちゃんの真の姿ではない。利他的な意識を持っていることが、本来の姿なのである。
赤ちゃんは、社会的 ステータスの選択意識もある。これも、驚きである。例えば、 バナナの数が多い方のぬいぐるみを選択する傾向にあるし、見た目、「魅力的な顔」を選択する傾向にある実験結果が得られている。
むむ、赤ちゃんは意外と正直なのだ。
さて、赤ちゃんは、どの様にして"自己"を認識するのだろうか?
興味深い実験が紹介されている。例えば、右手の人差し指で自分の左足の親指を触ると、触れた感覚は「同時」である。
これは、自分で試してみてもすぐに分かります。
でもちょっと考えてみて下さい。
脳から遠い箇所程伝達に時間かかかるので、実際は脳の中ではタイムラグが発生しているはずです。でも、実際にはその様な感覚に陥ることはない。これは脳が、「自己身体のモデル」を持っているからである。物理的に同時であるべき現象を、脳が補正しているのだ。
赤ちゃんは、どうもこの脳の補正を体験しながら、自分自身というものを形成しているのではないだろうか。
本著では、赤ちゃんの「社会的参照」(周りにいる他者の表情を見て、それに応じて行動を決定すること。)や乳児は、「物の数」について「視覚的」にも「聴覚的」にも関連付けて足し算」できるとか、興味の尽きない実験例が多数紹介されています。
ほんと、赤ちゃんには興味が尽きないことだらけです。
これが、人間の不思議さなのですね。