HTML5が日本の電機産業を救う。

”ウェブ進化 最終形”の紹介です。小林雅一氏の著作です。副題は、”「HTML5」が世界を変える”です。
HTML5の可能性とHTML5とは何なのかが、コンパクトにまとまって理解しやすい内容となっています。

ウェブ進化 最終形 「HTML5」が世界を変える (朝日新書)

ウェブ進化 最終形 「HTML5」が世界を変える (朝日新書)

HTML5の可能性とは何なのでしょか?
ブラウザは、「何かを見るためのホームページ」から「何かをするためのプラットフォーム」へと進化しています。「静的なホームページ」から「動的なウェブ・アプリケーション」へと進化しているのです。
進化した現在のウェブ・ページは、HTML、CSSそしてJavaScriptで構成されています。
HTMLはホームページの構造を規定し、CSSはホームページの見栄えを指定し、JavaScriptはホームページの動きを指定します。HTML、CSSJavaScriptが三位一体となり、インタラクティブなウェブ・アプリケーションを実現しているのです。
HTML5が、従来のHTMLと異なるポイントを、本著では次の3点をあげています。
①ジャバスクリプトで本格的な情報処理を実現するための新しい機能を導入
②HTML文書の論理構造を明確化
③異なるブラウザ間の互換性を実現
やはりこの3点のなかで最も重要なのは、①でしょう。本著では、以下の例をあげています。
”キャンパス・タグ”によるインタラクティブな描画機能の実現。、”ビデオ・タグ”や”オーディオ・タグ”によるマルチメディア再生の実現。”ドラッグ&ドロップAPI”と”ファイルAPI”によるデスクトップとブラウザ間での簡便なファイルの移動を実現。”ウェブ・ストレージAPI”によるネットから切断されてもウェブ・アプリの継続使用を実現。”ウェブ・ソケットAPI”によるリアルタイムな双方向通信の実現。
これらの実現される機能をみると、ネイティブ・アプリにも勝る機能を実現できるのではないでしょうか。HTML5の大きな可能性を感じます。

本著は、日本の家電メーカの復活のカギが、HTML5であると主張しています。
本著では、プラットフォームの変遷を次のように書いています。
パソコン時代(Windows)→モバイル時代(iOSiTunesAndroid)→マルチ・デバイス時代(HTML5
”マルチ・デバイス”がキーです。ここには、モバイル端末以外にも家電(ネット家電)が含まれます。マルチ・デバイスに対応する共通プラットフォームが、HTML5でありHTML5で動作するウェブ・アプリなのです。
この辺の大きな時代の流れを表したうまい言葉が、本著に書かれています。
” Internet of Things + HTML5 = Web of Things ”
インターネットに全ての機器が接続され、HTML5が共通のプラットフォームとなることにより、ウェブ・アプリケーションが全ての機器で実現できるのです。
さらに本著では、Web of ThingsがM2M(Machine to Machine)を拡大するとしています。M2Mとは、機器同士がインターネットを介してコミュニケーションをすることです。M2Mの例として、自動車分野への応用であるテレマティクスやエネルギー分野への応用であるスマート・グリッドや医療分野への応用であるオンライン・ヘルスケアをあげています。
産業領域や医療領域といった生活基盤をささえるM2Mは、非常に可能性がありますね。
そして日本のメーカは、幅広い分野の機器を提供しています。また、過去にOSIに準拠した機器相互間の通信にトライしたノウハウがあります。この点が、AppleGoogleや韓国メーカに対してアドバンテージがあるとしています。日本のメーカが、「最も広範囲の製品をカバーする、最もオープンなインターネット対応製品とサービス」を提供することが可能であり、ここに日本のメーカの再興のチャンスがあるとしています。そのカギとなるのが、HTML5なのです。

最終章はこれからのマス・メディアについて書かれています。
電子書籍については、ヤッパの伊藤氏の言葉を引用し、”電子出版のもつ最大の特徴は『メディアの淘汰』”としています。いままでは、情報過剰で、テレビや新聞や経済誌などが同じ情報を載せていました。これは紙や電波といった情報インフラが異なっていたからです。これからは、紙とディスプレイが一体化されて情報淘汰が進む、としています。
一方、某広告代理店の担当者の言葉も引用しており、”紙におこす力と電子媒体におこす力は別物”であるともしています。
この両者の意見には耳を傾ける必要があります。両者とも真実を突いているからです。電子書籍化の流れは止まらないでしょう。電子書籍化の流れのなかでメディアが淘汰されます。淘汰というよりは、新たなメディアの形態が生み出されるといった方がいいかもしれません。またおそらく、紙の出版物も生き続けます。紙の出版物が全て電子書籍にはならないでしょう。紙の特質を活かした出版物が生き続けると思われます。
TVとネットについても書かれています。そのなかで、リーン・バックとリーン・フォワードという言葉が使われています。リーン・バックとは、リラックスして端末に向きあうことです。これが今のTVです。リーン・フォワードとは、積極的に端末に向きあうことです。これが今のインターネットを利用する姿です。これからのTVは(TVと呼んでいいのか分かりませんが)、リーン・バックとリーン・フォワードが融合したデバイスとなります。ただ、この融合のバランスが難しいところです。これからのTVは、リーン・バックが主体で、ゆるやかなリーン・フォワードを取り込む形態になるのではないでしょうか。
ソーシャル的な機能を取り込むことも重要になるでしょう。本著では、テレビ局関係者の言葉を引用しています。”核家族や単身者が増え、テレビがお茶の間メディアからパーソナルメディアに変化しつつある今、ソーシャル機能を活用することによって、昔の街頭テレビ的な、大勢でテレビを楽しむという感覚を再現できる”としています。
この、皆でテレビを楽しむ感覚は重要ですね。TV番組を見ながら、リアルに感想を発信することもできます。それに、ソーシャル機能を利用して皆がみているTV番組を探すこともできますね。

本著の最後には、メディアの構造変化が書かれています。
コンテンツの配信とそれを利用する為の端末の販売で万全なエコシステムを築いたAppleAmazonですが、このビジネス・モデルの限界を指摘しています。その限界とは、”次世代のメディア産業やコンテンツ・クリエータを育成する”ことです。確かにその通りです。AppleAmazonのビジネス・モデルでは、”よいコンテンツ”が存在していることが大前提です。ただ、AppleAmazon自身で”よいコンテンツ”を生みだすことはできません。
著者は、打開の為のヒント提示しています。これからは、通信メディアが従来のラジオやテレビ放送局の役割を担う時代である。これからは、通信用の電波を握っているキャリアが新たなメディアの役割を担うとしています。そのカギを握るのが、HTML5なのです。HTML5は、グローバル・リーチでありマルチ・デバイス対応が可能なのです。
このような、大きな時代の変貌のなかで、テレビ局や新聞社、出版社にもその役割の変貌を求めます。コンテンツ・プロバイダーへの変貌です。テレビ受像機や出版物といった特定の端末にこだわっていることからの脱却を求めています。キャリアに対しても変貌を求めています。メディア事業者(プラットフォーマー)としての自覚です。キャリアの役割は、最早単なる通信事業者ではない、としています。
キャリアが今後のメディアを担う主軸になるべきである、といった意見には賛否両論があると思われます。著者は、KDDIに所属していますので、キャリア主体の時代が到来するといった主張は、理にかなっています。実際そうなるのかというとまだ分かりません。ただ、その可能性を秘めていることは事実ですし、日本のキャリアの戦略をみると、その流れが始まっていることも事実です。
最近開催されたワイアレスジャパン2011の基調講演の記事を読んでみると、確かにキャリアはただの通信業者ではなくなっていますね。通信インフラの整備と同時に、新しいサービス(コンテンツ含む)の提供とサービスがシームレスに利用出来る環境の整備を目指していることが分かります。