SonyとApple

今年の4月23日に大賀典雄氏がなくなられた。合掌。
このニュースに触れて、やはり寂しい思いがした。盛田氏と直接繋がっていたDNAがこれで途絶えてしまうのか、といった寂しさだ。
AppleSonyの歴史をたどるのは興味深い。
AppleSonyになりたくてSony以上の会社になった。SonyAppleになれるチャンスがあったが、そのチャンスを逃した。その分かれ道は、一体どこにあったのだろう。

SonyになりたっかたApple
AppleがどれほどSonyになりたかったのかがよくわかる記事(John Sculley On Steve Jobs, The Full Interview Transcript)がある。あのJohn Sculley(ジョン・スカリー)がSteve Jobsスティーブ・ジョブス)を語った記事だ。

The one that Steve admired was Sony. We used to go visit Akio Morita and he had really the same kind of high-end standards that Steve did and respect for beautiful products. I remember Akio Morita gave Steve and me each one of the first Sony Walkmans. None of us had ever seen anything like that before because there had never been a product like that. This is 25 years ago and Steve was fascinated by it. The first thing he did with his was take it apart and he looked at every single part. How the fit and finish was done, how it was built.
ティーブが賞賛した会社にソニーがあった。スティーブとは、盛田昭夫氏をよく訪れたものだ。盛田氏は、スティーブがそうだったように、ハイエンドの基準を持っていた。それにビューティフルな製品に心を惹かれていた。盛田氏がスティーブと私に最初のソニーウォークマンをプレゼントしてくれたことを覚えている。それは誰も見たことがない製品だった。誰もそんなものを作ったことがなかったからね。そう、25年前だ。スティーブはそれにとりこになってしまった。彼は、まずウォークマンをばらばらにして、そして部品の一点一点を見ていたよ。どうやってうまく組み合わせて完成させたのか。どうやって作りあげたのかってね。

ジョブス氏が盛田氏と繋がりがあったことが印象的です。お互い、そのスピリッツに共通したものがあったことを感じていたに違いありません。ウォークマンを分解して、まじまじと見つめ続けるジョブス氏の姿が目に浮かびますね。

そして、インタビューは続きます。

He really wanted to be Sony. He didn’t want to be IBM. He didn’t want to be Microsoft. He wanted to be Sony.
彼は、心底ソニーになりたかった。IBMになりたかったわけではない。マイクロソフトになりたかったわけでもない。ソニーになりたかったのです。

AppleになれなかったSony
スカリー氏は、Sonyの問題点も指摘しています。

And you can see today the tremendous problem Sony has had for at least the last 15 years as the digital consumer electronics industry has emerged. They have been totally stove-piped in their organization. The software people don’t talk to the hardware people, who don’t talk to the component people, who don’t talk to the design people. They argue between their organizations and they are big and bureaucratic.
ソニーがかかえる大きな問題を目の当たりにすることができます。ここ15年間のデジタルコンスマーの電気機器産業が抱えていた問題が浮き彫りにされています。Sonyは、組織の中が分断されていました。ソフトウェアの開発者はハードウェアの開発者と話しをしません。ハードウェアの開発者は部品の開発者と話しをしません。部品の開発者はデザインのエンジニアと話しをしません。彼らは組織と議論をするのです。巨大で官僚的な組織と議論をするのです。

うーーん。頭が痛いですね。ただこれは、Sonyに限ったことではないのです。
インタビューは続きます。

Sony should have had the iPod but they didn’t ― it was Apple. The iPod is a perfect example of Steve’s methodology of starting with the user and looking at the entire end-to-end system.』
ソニーiPodを製品化するべきでした。でもそうにはなりませんでした。製品化したのは、Appleなのです。iPodはスティーブのやり方として完璧なサンプルでした。ユーザから始まり、end to endのシステムとして完璧な例でした。

ソニーが”iPod”の製品化を取り逃がしたときの忸怩たる思いが綴られている本があります。辻野晃一郎氏の著作(『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』)です。
この辺の経緯を、”ウォークマンiPodに負けた日”と称し、一章を費やし書いています。
ソニーは音楽のデジタル配信で先陣を切っていたのですが、自ら音楽レーベルをもっていたがゆえに、ジレンマに立たされます。ソニーAppleにその隙をつかれます。Appleは持たざるものの強みを最大限に発揮し、ユーザ側に全面的に立つことができたのです。

何度でも言うが、インターネットでの音楽配信を最初にやったのはソニーだった。アップルではない。
ソニー著作権保護とユーザの使い勝手の両方に苦労しているのを尻目に・・・アップルはiPodiTunesを商品化した

ただ、ソニーも巻き返しを図ろうとしますが、開発部隊全員が、まだ時代の流れを理解していません。辻野氏は時代の流れを読んでいるのですが、開発部隊が時代の流れを読みきれていません。

今や、デジタルエンターテインメントの世界は、インターネットと連携した優れた生態系をトータルで作り上げることが勝負なのであって、昔のようにオフラインのデバイスの優劣で勝負が決まる時代ではなくなった。・・・当時のウォークマン部隊の人達は、iPod対抗を意識するときに、依然として「音質の良さ」とか「バッテリーの持ち時間」、果ては「ウォータプリーフ(防止加工)」などの話を主題として持ち出してくるので唖然とした。

そして決定的な瞬間が訪れます。iPod nanoが発表されたのです。辻野氏は、当時の心境を語っています。

彼らの新製品を一目見た瞬間に、私は敗北を悟った。

そして、しばらくして辻野氏は22年間務めたソニーを去ります。

・分かれ道
結局、ソニーは大企業の壁を突き崩すことができなかったのです。これは、ソニーに限らず、多くの大企業が抱えている問題です。
企業が成長するとさまざまな組織が出来上がります。最初は会社全体の運営を効率的に回すために機能しているのですが、企業が成長するつれて、組織が自己保全に向かいます。これは、組織自体に責任が押し付けられていくからです。自己保全に向かった組織は、他の組織を助け合い会社全体の利益達成する目的を見失い始めます。組織が自己保全に向かうため、責任をなすりつけ合い始めます。そして大きな壁が築かれていくのです。

・新しい組織論
組織の壁を突き崩すことが非常に重要なのですが、従来の組織構造の中にいると、突き崩すことは極めて困難です。
そこでちょっと気になったことがあります。
先日のブログでも書いたのですが、第一回スマートフォン&モバイルEXPOが開催され、初日に特別講演が開催されたました。ソフトバンクモバイルの副社長である宮内氏の講演の中で、企業版のソーシャルネットワークを構築したい発言がありました。
宮内氏がソーシャルネットワークのビジネス版に思い入れがあるのは、今回の東日本大地震が発生した直後に、全国の営業部隊と取引のある納入業者の間に、FaceBook的なソーシャルネットワークをすぐに構築しました。このネットワークが被災地現場の正確な情報把握に大いに役立ったからです。
宮内氏は、企業内のソーシャルネットワークがコミュニケーションの活性化と個々人の能力活性化を促すことを期待しています。
講演では、転職して間もない、あるコンサルタントの方から聞いた話を例としてあげています。そのコンサルタントの方は何をしているかというと、結局現場で働く担当者の声を整理しなおしてトップに進言しているだけなのだ、と話してくれたそうです。(コンサルタントの方が全員そのようであるという訳では勿論ありません。)企業の中で、上下関係間の情報流通がいかに貧弱かをうまく伝えています。
宮内氏の目指しているのは、組織の壁を突き崩すことです。フラットに情報が共有化されることを目指しています。
それではトップは何をするのか。トップはビジョナリーとなるべきなのです。時代の流れをつかみ、強い意思で、時代の流れに沿ったプロダクトを世の中に送り出すべきではないでしょか。

宮内氏の提示した企業版のソーシャルネットワークが、インターネット時代にふさわしい新たな組織論のヒントになるのではないでしょうか。

グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた

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