ウェブ×ソーシャル×アメリカ

池田純一氏の”ウェブ×ソーシャル×アメリカ”を読む。

ウェブ×ソーシャル×アメリカ <全球時代>の構想力 (講談社現代新書)

ウェブ×ソーシャル×アメリカ <全球時代>の構想力 (講談社現代新書)

著者があとがきにも書いてあるが、話題が多岐に渡るため”ジャンル分けが難しい本”である。話題が複合的、重層的に語られているので、読む人それぞれが、注視する箇所が異なってくるかもしれない。
とりあえず、おいらが気になった箇所をピックアップしてみます。

■ インターネットの普及
今のインターネット時代を切り開いたのは、アル・ゴアの情報スーパハイウェイ構想がキーとなっている。
”90年代の規制緩和の中で、ARPANETをインターネットとして民間利用に強制的に転用させた。”ことが、今のインターネット時代を花開かせた起点となっている。この辺は、やはり国家的な視野、戦略で物事を推し進めるアメリカの底力を感じさせます。
そしてそのインターネットの爆発的な普及は、”ネットワーク科学者であるバラバシによれば、インターネットは自発的に成長する性質を持つネットワーク”であるからだろう。インターネットは増殖していくのだ。


■ GoogleFacebook、そしてApple
やはりインターネットときいて、最初に思い浮かぶ企業はGoogelだ。”Googleが革新的だったのは、ウェブの活動そのものに基づいてマネーが回る仕組みを作ったことだ”であり、Googleは新しい価値のある市場を創出したことである。
Appleも忘れてはならない。Appleは確かにカウンターカルチャーの匂いがする。そもそもJobs氏自身がヒッピー的生活(コミュニティーへの参加、インドでの放浪)をしていた。そしてAppleが提供する機器は、人間を解放する(PCが人間に近づいてくる)ものである。
Facebookは、GoogleAppleとは全く異なったビジョンがある。著者は、創始者ザッカーバーグの印象をこう述べている。”ザッカーバーグアメリカ人だが、むしろヨーロッパ的な精神に突き動かされているようだ”。ザッカーバーグFacebookを通して、ユートピアの創出を目指しているのかも知れない。
FacebookGoogleとの決定的な違いを、著者はこう書いている。
Googleが端末に繋がった人たちをあくまで情報入力装置として客体化して捉えようとするのに対して、Facebookは、端末を介してネットワークの向こうにいる人を繋げることで、そこで有意な情報が新たに生み出されることを期待している。”
そして、著者はこのFacebookが次の時代を築くことに期待しているようだ。次の時代のキーとなるのは、
Appleが依拠したカウンターカルチャー性(人々の解放)の追求でもなく、Googleが一般化した市場交換性(ウェブで完結した交換=売買)の実施でもなく、Facebookに代表されるソーシャル・ネットワークが用意しようとするデモクラシー(平等社会)のウェブでの配備が鍵を握る。”としている。
おいらは、Appleびいきなので、残念ながらこの主張には全面的に賛成できない。どれが次のキーとなるかというよりも、Apple的なもの、Google的なもの、Facebook的なものが並行して進化していくのだろうと考えている。何故なら、まだそれぞれのアプローチは完成されていないからだ。


■ BOP(Bottom Of the Pyramid/Base Of the Pyramid)市場の可能性について
新興国の市場の重要性がよく話題になるが、おいらのいままでの理解は、単純に先進国の市場が飽和して新たな市場としての位置づけとしか捉えていなかったのだが、本書を読んで、考え方が変わった。BOPの市場は新しい仕組みを創出する場でもあるのだ。新興国では社会インフラが整備されていない。無線インフラが通信の主要な手段となっている。このため、”モバイル・バンキングは銀行の支店ネットワークが配備されていない場所で個人間の送金を可能とする手段となる”のだが、”これは裏返すと、無線端末や無線通信を供給する企業がそのまま銀行業務を担う可能性があることを意味する。既に銀行網が確立された先進国ではそこまでラディカルな変化は一朝一夕には起こらない。”のである。BOPの市場というのは、先進国に比べれば何もない状態だ。逆にいうと何も無いので先進国のような規制や縛り(既成観念に基づいたビジネスモデル)がないのである。そこに新し市場や仕組みを生み出す多くの機会と可能性が秘められているわけだ。


■ アメリカ企業の強さ
アメリカの企業の強さは、ビジョナリーが多数存在していることだろう。ビジョナリーとそれを実現するための経営手腕が両輪となり、企業を成長させていくのだ。本著から抜粋する。
”創業者の熱意は、サービスを実際に開発するスタッフ=技術者たちの夢としてある。開発目標というゴールの設定を揺るぎないものにするために彼ら創業者の明確なビジョンが必要となる。その傍らで、日常の営業業務は現実社会のルール=世知に長けた人々があたる。それが今日のアメリカのハイテク企業の理想的な組織形態の一つだ。”
そしてそのビジョンは、よりよい社会を作り上げることであり、30年のスパンで物事を考える必要性があると、著者はうったえている。”今この瞬間に思索されたものが30年後にはリアルなものになる。そう想定するところから始めてみる。そして、そうした「ジェネレーションからの発想」の実践者としてウェブ企業の創始者=ビジョナリたちが存在する。”のである。
こう考えくると、日本企業も視点を大転換する必要があります。特に、日本のIT企業大手は、このままではアメリカや中国の企業に飲み込まれてしまうでしょう。ビジョナリーの不在が決定的な弱点ですね。

以上おいらの気になった箇所をピックアップしました。
概観すると、地球規模での視野に立つこと、但し日本文化も忘れずに視野に入れておくことですね。