いけばなで、つながる。

草月流の四代目家元の、勅使河原茜さんの書かれた”いけばなー出会いと心をかたちにする”を読みました。

何で突然いけばなの話題なのか、と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、もともとの発端は、先日のブログで紹介した、佐々木俊尚さんの”キュレーションの時代”にあります。この本の中で、『月明飛錫』というブログが紹介されており、(このブログはなかなかいいです。読む楽しみがあります。)ブログにはこのブログの作者である逍花さんがいけたいけばなが時々掲載されています。いけばなとやらを実際みてみると、ちょっとほっとした気分になれて、印象に残っていました。
一週間ほど前、本屋をぶらぶらしていると、ふとこの本が目に止まりました。おそらく”いけばな”というキーワドが、心の中に残っていたのでしょう。本を手に取り、口絵の写真や冒頭の文章を読んだら、強く惹かれる思いが湧き上がり、即購入してしまいました。
おいらが思うに、これが”情報の連鎖”です。
さて、強く惹かれた冒頭の文章とは、
『花は、いけたら、花でなくなるのだ。いけたら、花は、人になるのだ。』
です。何といい言葉でしょう。この言葉に出会えたことだけでも価値があります。著者である勅使河原茜さんの祖父、勅使河原蒼風の言葉です。著者も、この言葉がお気に入りです。
口絵の写真も実にいいんですよね。WoooのCMで使われた「紅い花」。このCMの撮影会の時の印象を著者は、本文で次のように書いています。
”次第に皆さんの目がグロリオーサに吸い寄せられていく感触を、私は肌で感じました。”
グロリオーサの”紅い花”と古木のねじれた枝の対比が非常に素晴らしいです。
”もくれん、くわずいもの葉”も、はっとさせられるいけばなです。もくれんの花と背景にあるくわずいもの葉の対比が素晴らしいです。くわずいもの葉がもくれんを優しく包んでくれています。もくれんに生命力を与えています。

本著には、蒼風の言葉が、要所要所で引用されています。どれもいい言葉なので、ちょっと抜粋してみます。
『いけばなは出会いである』(その出会いを大事にすることが重要です。)
『いけばなはスキ間の芸術でもある』(これは、西洋のフラワーアレンジメントとの違いを明確に指摘しています。日本の文化は素晴らしいです。日本人は、もっと日本の文化を誇るべきです。)
『心の感動が花にあらわれる。花に自己があらわれるのだ』(これは、冒頭に引用されていた言葉に通じます。)
『自分の線を持つこと。どんな植物の中にもある線の中から、自分独特の線を引き出して、そこに自己を表現する』(芸術論。創造論ですね。)

著者の勅使河原茜さんは、最初は保育園に勤めていたそうです。そのような方が、草月流の家元を継ぐまでの経緯と心境が本著では書かれています。幼少の頃の思い出と成長するまでの悩みが書かれています。父親の勅使河原宏氏は、茜さんのことを、よーく分かっているんだなあと感じるエピソードがあります。茜さんが姉と同じく留学を決意し断念する、ハワイでの出来事です。本著には、明確に書かれていませんが、おそらく父親の宏さんは茜さんの性格をよく分かっていたので、わざとゴルフにでかけ茜さんを一人にして試したんだと思いまいした。やさしい父親です。

この本がいいのは、茜さんが、われわれの視点に近い形(自由奔放な姉とマイペースの妹のなかで、自己主張に乏しく人の影響を受けやすかった、と茜さんは小さいころを振り返っています。茜さんは普通のどこにでもいる少女でした。)から、成長し(最後には自分のいけばなのスタイルについて父親の勅使河原宏氏と激論するほどになります。)家元になるまでの思いが綴られているからです。
伝統というものを大事にしなければいけないな、と思いたくなる文章があります。これもわれわれの視点に近い形から、いけばなに向き合ったから得られたものです。
”伝統に培われたものというのは、ただ古臭いものではなく、強い力をもっていることを認識するようになった。”

本著の最後で、
”いけばなとは何か。空間とはなにか。伝統とは何か。いのちちとは何か”
と著者は自らに問いかけます。その結論として、
”いま、私の心を強く捉えているもののひとつが、「いけばなとは人を育む」という思い”
にたどり着きます。
これも非常に大事ですね。本文にも、いけばなのジュニアクラスの描写が書かれていますが、いけばなとは、ただ鑑賞するだけのものではないことを理解させてくれます。

本著を通して感じたことは、”いけばな”というキーワードを通して、たくさんの人がつなかりをもっているということです。
”いけばな”というキーワードを通し、茜さんと祖父・祖母(勅使河原家を支えた祖母)、両親、ジュニアクラスの子供たち、たくさんの人達がつながっているのです。そして、その軸をなすのは、伝統です。

さてさて、おいらは、いけばなをやっていませんので、近くの植物ガーデンで撮った花の写真を載せておきます。