賢き群れ
”群れのルール”読了。(ピーター・ミラー著、土方奈美訳)今年最初の一冊である。
- 作者: ピーター・ミラー,土方奈美
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2010/07/16
- メディア: 単行本
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本著で取り上げられる昆虫と動物は、アリ、ミツバチ、シロアリ、鳥(魚)、バッタです。
”アリ”の章では、アリの行動原理を利用して、巡回セールスマンの問題を解く例が紹介されています。
餌に辿り着く経路が複数あった場合、その最短の経路を見つけ出すには、一匹のアリでは到底実現出来ません。それを集団で単純な行動原理を用いる事によって解決してしまうのです。
アリが辿る時に残されるフェロモンの濃度を、うまく利用する事によって実現しています(時間が経過するとフェロモンが揮発し、濃度が薄くなる事をうまく利用しています)。
この行動原理を利用して、ガス配給会社の配給効率化をうまく実現した例が紹介されています。
次に取り上げられるのがハチです。定番ですね。
ハチの行動としては、あの8の字ダンス(餌がある方向と餌までの距離を8の字のダンスで仲間に知らせる)が有名ですが、ここでは、どの巣箱がベストなのかを、集団としてハチがどの様に決定しているかを解説しています。
こちらも先のアリの行動と似て、一匹のハチに命運を託すのではなく、巣箱の偵察隊のそれぞれの意見を平等に聞き、最終的な決定をします。
偵察隊の個々の意見には、自分が確認した巣箱に対する評価にばらつきがあります。ただ、このばらつきも偵察バチの数が適当であれば平均化され、ベストの回答が浮き彫りにされてくるというわけです。
次はシロアリです。
皆さんも、サバンナに大きな土の塚がある写真をみた事があるはずです。人間の背丈ほどもある、土の塚です。
この塚の中にシロアリが住んでいる訳ではありません。シロアリは、地中に住んでいるのですが、生存のために、この土の塚によって地中の湿度を保たせているのです。
この土の塚は、空気の流れ、風の流れを上手く利用して、地中の湿度を一定に保っているのだ。命綱となる土の塚が一部でも破壊されると、シロアリは自動的に土の塚の再構築に奔走するのだ。
シロアリは、湿度の急激な変化を察知することによって、塚の構造に異変が生じたことを感知し、塚の再構築に邁進するのである。
次は鳥です。
ここでは魚の群れの行動も取り上げられている。
鳥や魚の行動として、ひとかたまりの鳥の群れや魚の群れが、群れの塊自体がまるで意思を持って行動するような光景や映像は良く目にするであろう。
この行動は非常に統一されたように見えるので、何か統一した意思があるかのようであるが、行動の原理は非常に単純なものである。要は、周囲の行動のみを気にして模倣しているだけなのだ。ただ、それが種の保存という観点にたつと、ベストの行動となる訳である。
この”鳥”の章は、群衆行動の心理も取り上げられており、非常に興味が尽きない章である。(群衆心理の負の側面は、最終章の”バッタ”の章で語られる)
おいらが一番興味を持ったのはこの章の中に書かれていた、鳥や魚の群行動を模倣したロボットの研究である。
二つのプロジェクトが紹介されている。
最初は、SRIリサーチによるCentibot(センティボット)の開発である。
Centibotsプロジェクトとは、多数のミニロボットのチームワークによって、設定された目的を達しようとするものだ。多数のミニロボットによって、あるフロアーのマップを自動的に生成したり、チームワークを組んで目標物を探し出すのである。丁度、軍隊組織と同じ様な命令系統で、多数のミニロボットが目的を遂行する。
もう一つは、SwarmRobot(スワームボット)と呼ばれている研究だ。こちらはヨーロッパの国が中心となっている。開発内容もウェブ上でオープンになっている。先に紹介したSRIリサーチの研究とは対象的である。いかにもヨーロッパらしい研究スタイルだ。
SwamRobotの方が、より昆虫的な動作を示すので面白い。
それぞれのビデオがあるので紹介します。
まずは、Centibotのビデオからです。You Tubeに適当なビデオが見つかりませんでした。Centibots:The 100 Robots ProjectのHPに掲載されているビデオを御覧ください。
次はSwarmBotのビデオです。
本書でも述べられていますが、Centibot(センティボット)の行動は軍隊組織的な行動です。いかにもアメリカっぽい研究です。
おいらが興味を惹かれたのはSwarmBot(スワームボット)ですね。こちらはSwarmbotsといったorgのHPがあり、研究内容の詳細がオープンになっています。
このHPでは、HWの構成や、SWの内容もオープンになっています。
ミニロボットの行動を決定するアルゴリズムも書かれていますが、アルゴリズム自体は、5〜6行程度の非常にシンプルものです。
複雑に見える行動も、行動原理はシンプルであることがよく分かります。
群れ全体を統合するというよりも、個々のミニロボットが群れに中の自分の位置と、それそれの個体間の距離をもとに、目的に応じてなにをすべきかをプログラミングされているだけです。それぞれのミニロボットが自分の置かれている状況を近くのミニロボットに伝えることによって、集団として、その群れの目的を達しようとするのです。群れとして統一した行動ににみえるものでも、個々の単純な判断と判断結果を伝えることによって、群れとしての目的を達するのです。
昆虫の進化とは、環境に応じて行動原理を単純化し、種の生存のために単純化を極めた結果であると言えます。
一見複雑にみえる現象でも、その個々の動作原理は単純であることをよく示した本に、西成活裕氏の”渋滞学”という本があります。こちらもおすすめです。
- 作者: 西成活裕
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/09/21
- メディア: 単行本
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だいぶ横道にそれてしまいましたが、本書の最終章に書かれている、群れのルールから導かれた二つの教訓をピックアップしておきます。
第一の教訓は、
賢明な集団として協力すれば、状況の不確実性、複雑性、変化の影響を抑えられる。
そのためには、ローカルな知識を重視する(情報の多様性を重視する)、単純なルールを適用す(複雑な計算をしない)、メンバー間で相互作用を繰り返す(ささやかだが重要なシグナルを増幅し、意思決定を迅速化する)、定足数を設定する(意思決定の精度を高める)、個々のメンバーの行動に適度なでたらめさを残す(集団が常に型どおりの解決策を選ぶのを防ぐ)
第二の教訓は、
集団に所属していても、個性を封印する必要はない。
この二つの教訓は、集団が構成されているあらゆる場面で、集団が最高の叡智を発揮するルールでもあります。