”スマートメディア”の時代

BE-PAL」や「DIME」、「サライ」の創刊編集長であった中村滋氏の気になる著作の紹介です。
Amazonとリンクさせようとしましたが、現時点でAmazonでは本著は取り扱っていないようですね。
 その後Amazonでも扱いを始めましたのでAmazonとリンクさせました。)

スマートメディア―新聞・テレビ・雑誌の次のかたちを考える

スマートメディア―新聞・テレビ・雑誌の次のかたちを考える

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昨日ぶらりと本屋巡りしてどうも気になり即購入、一気読みでした。非常に刺激的な本です。
帯にも書かれていますが、雑誌の行く末と次のメディアについて、一消費者の視点と元編集長という、雑誌業界に身を置いた経験から書かれています。
次のメディアについてもかなり詳細の提案があり、アプリの開発には非常に参考になると思われます。また、インターネットについても、その限界を的確に指摘しており、インターネットを今後どのような方向に向かわせるべきかを考える際に、非常に参考になります。

マスメディアの崩壊と今の問題点を、本著の冒頭で述べています。抜粋します。
”従来型のマスメディアは、送り手り受け手の情報格差を前提条件として生まれ、成長してきました。しかし、こうした情報格差は解消されつつあります。マスメディア成立の前提条件が、崩れつつある。”
”いま、わたしたちが直面しているもっとも大きな問題は、「爆発的に膨張し続けるものや情報と、多様化・細部化する人々が出会えない」ということです。”
”この「人々の多様化と細分化」こそが、デパートやマスメディアを衰退させた最大の要因であり、したがって、新しいメディアの条件を考えるうえで、もっとの重要なキーワードなのではないか。”
以上の考えをもとに本著は展開されていきます。

それでは、雑誌の形態はどこに向かうのでしょうか。次のように書かれていますが、それぞれまだ問題を抱えており、最善の解決策とはなっていません。
”雑誌が生きのびるために模索している方向は、おおむねこの四つに集約されます。①ニッチ化 ②ページ(情報量)の増大  ③大特集主義。あるいはムック化 ④大型付録つき”

新刊書籍が氾濫し、読みたい本があっという間に入手困難な状況になった要因として、日本独自の委託販売制があるようです。
委託販売制では、売れ残った書籍は書店から出版社に返品されますが、本来はその時点で書店に対し返品分を返金すべきですが、実際は返金の代わりに新刊本納入により返金の代金をちゃらにしてしまいます。この循環が繰り返され、書店には常に大量の新刊本が溢れかえっているのです。
この状況は良く見かけます。なぜあれほどまで新刊本や同じような書籍や文庫が山積みとなっているのでしょうか。本当に読みたい本は、他にもたくさんあります。

ニッチ化が意外とビジネスになりそうです。本著でも”専門家したカテゴリー型書店、ニッチ書店が魅力的です。”と書かれています。確かにこれはいえます。とにかくめちゃくちゃ大規模で流通している本はすべて手に入る書店か、この分野の書籍であれば品揃えが充実している、といった書店しか生き残れないかもしれません。ビジネス的にはこのニッチな書店がいいかもしれませんね。それもただの専門書店というよりは、そのカテゴリーの書籍以外の商品も扱っている店舗であれば、面白いビジネスができそうですね。

著者は訴えます。”多様化・細分化の進む成熟社会だからこそ、「自分が欲しいと思うもの」をつくらなければなりません、雑誌は本来そうでした。”

電子書籍が、今話題の中心ですが、出版社が積極的になれない理由はとして次の四点を挙げています。①端末の不統一 ②流通ルールの不統一 ③著作権問題 ④電子媒体の本質
いずれ、徐々にでも解決に向かうでしょうか、それだけでは問題は解決しません。
そうなのです、本著でも”メディアにとって、もっともむずかしいのは、どうやってユーザと情報を出会わせるかということに尽きます。”との主旨が繰り返し述べられています。
iPhoneのお天気アプリを探すのに、結局友人から教えてもらったというエピソードが書かれていますが、やはりソーシャル的なアプローチも有効ですね。確かに自分のお気に入りのアプリを探すのは大変です。検索のみで探すのはかなり困難です。
この辺がインターネットの検索機能の限界を示しています。ただこれは、現在の検索の限界であり、検索の究極の姿にはまだ程遠いのです。
著者はインターネットの弱点に斬り込んでいきます。
”インターネットには、さらにもうひとつ、重大な弱点があります。「好き」は検索できても「好み」は検索できません。”
著者はさらに斬り込んできます。ログでは好みはわからないといった立場です。”ユーザの嗜好をマスでとらえなおしたあと追いの提案しかできないので、目新しいものに出会うことは難しい。”
究極は、”大多数の人が欲しがっているものより、自分にピッタリのものを提案する”ことです。そしてもうひとつプラスアルファがあります。この「好み」は、本人が気づいていない場合もある、ということです。この辺をうまく解決してあげれば、すばらしいエージェント機能をもったパーソナルアシストのアプリができるでしょう。

これからの電子雑誌にのつくり方の提案として、以下の四点を挙げています。①いつも最新の記事が掲載されている。②ページに制限がない。③みんなの考えも知りたい。④自分の読みたいことだけを優先して読みたい。
ちょうどこれを実現したアプリがあります。そうです。iPadで提供されているFlipbordです。このアプリは、2010年のiPadベストアプルにも選ばれています。記事はこちらです。今年のベストiPadアプリ:自分版の雑誌を作る『Flipboard』
デモビデオはこちらです。


このアプリ自体は無料です。どのようにビジネス化するかはこれからですが、”雑誌の未来形”の原型になることは間違いないでしょう。

さて本書に戻りますが、本書の第4章と第5章には、本書の題名でもある”スマートメディア”を実現するめの具体的なアイデアがぎっしりと詰まっています。スマートフォン向けのアプリ開発を検討する上で非常に参考になります。一読して損はないですね。
帯にも書かれていますが、”スマートメディア”を実現するための3つの条件は、”クラウド”、”フロー”、”1to1”です。詳しくは、本を手にとって下さいね。