潜入ルポ アマゾン・ドット・コム

”潜入ルポ アマゾン・ドット・コム”読了。ジャーナリスト横田増生氏のアマゾン物流センター潜入ルポである。

潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫)

潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫)

本書は2部構成となっている。第一部は、アマゾン物流センター潜入ルポである。こちらは、2005年に出版された”潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影”が元になっている。2003年暮れから2004年初めにかけて、千葉の市川塩浜にあるアマゾン物流センターでのアルバイトを通して、アマゾンの実像に迫っている。第二部は、2005年以降2010年までの間に、アマゾンがいかに発展したかが描かれている。また、電子書籍について、肯定的な立場と否定的な立場のお二方のインタビューが掲載されています。
第一部は、物流センターでのアルバイト体験記だ。物流センターでの体験を通して語られるのは、物流センターでの徹底した効率化と今の世の中の労働者市場の実態である。そして、アマゾンが成功した理由についても考察されている。
物流センターでの徹底した効率化というのは、いかにネット社会といえども、物品販売をしているいじょう、最終的に情報(顧客の注文データ)と現物とを一対一に対応させる必要があるわけで、その作業は人手に頼らざるを得ない。ただその作業には付加価値を見出すことはできないので、当然のことながら労働集約型の経営を強いられる訳だ。そして、作業者は徹底した効率化を求められることになる。ただ本書の描写は、悲痛さを強調するでもなく、ただ淡々とこの現実を描いている。そして、そのような状況の中でも、あるノルマ、アマゾンの物流センターでは、”一分3冊のピッキング”がノルマ目標とされ、その数値に向かって少しでも効率化しようとする筆者の姿である。
筆者は、現場を通して5つの階層が形成されていることを指摘している。トップにいるのは、アマゾン社員、次が物流センターを仕切る日通の社員。アルバイトも階層があり、アルバイトのトップはレシーピング(荷受け)とストーイング(棚入れ)で、次が、梱包・出荷。最下層はもっとも重労働を強いられるピッキングだ。いまの社会階層を反映しているともいえる。現代社会の縮図が、アマゾン物流センターに反映されているのだ。筆者は、この状況を見て、あのチャップリンの”モダンタイムス”を想起している。考えることを放棄して、指示通りに体を動かすことを求められている、機械の代わりに働く人々だ。というより、機械のために働く人々だ。これが実態である。ただそれをどうすることもできない実態である。
アマゾン躍進の秘密はどこにあるのか?アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスが求めているのは、”顧客第一主義”と”ネット上にある「小さな書店」”である。この「小さな書店」を目指すことは意外と捉えらるが、”本”という特質を考えると当然のこととなる。”本”とは、極めて個人的なものである。”個人的なもの”を満足させるためには、こまめなケアが必要だ。オススメ本を自動的に表示するツールやカスタマーレビュー、”マイストア”のようなパーソナライズ機能。このこまめな対応が、成功の秘訣ともいえる。本著でも次のように記載している。”アマゾンの成功の秘訣は、これまで書店員の個人の力量にかかっていたこういったサービスを、コンピュータに肩代わりさせたことだ。”
そして最終的に、筆者もアマゾンのファンになってしまうのだ。
第2部では、2005年から2010年にかけてのアマゾンの躍進が描かれいる。マーケットプレイスへの出品体験談も記載されている。このマーケットプレイスの体験談は興味が尽きない。この体験談を読むと、中古本の販売でもアマゾンは手数をうまく徴収していることが分かる。ちょうど、地主と小作人の関係だ。地主は、マーケットプレイスといったプラットフォームを提供することによって、出品者である小作人から手数料をうまく徴収しているのだ。
巻末には、電子書籍に肯定的な立場と否定的な立場をとっているお二方のインタビューが掲載されている。インタービューの中でここまでアマゾンは考えているのか、といった箇所がある。ちょっと抜粋してます。
”アマゾンが目指しているのは、紙の書籍と電子書籍を合わせた時の売上の最大化にあると思っています。(中略)。日々の業務を通して、電子書籍をいくらで売れば売上高が最大化できるのかという”黄金比”を探しているところだと思います。”
この”黄金比”を求めているといった姿勢が凄いですね。
本著の全体を通して感じるのは、アマゾンのビジネスのうまさである。そして、その成功は、顧客が一番満足できるビジネス形態に突き進んできたことだ。