iCON、偶像としてのスティーブ・ジョブズ。

スティーブ・ジョブズ 偶像復活”読了。原題は、”iCON Steve jobs The Greatest Second Act in the History of Business”である。(ジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン著、井口耕二氏訳である。井口氏はIT関係の本を多数訳出していますね。)

スティーブ・ジョブズ-偶像復活

スティーブ・ジョブズ-偶像復活

500ページを越える本であるが、一気に読み終えてしまった。ここまで深く踏み込んで書き上げた著作者に拍手です。Apple創業から、iPodの成功までを書いた本として、そしてジョブズ氏のプライベートまで触れた本として、決定版ではないでしょうか。
Apple創業時の成功、AppleIIによる成功は、やはりスティーブ・ウォズニアック氏に負うところが大きい。そんな現実の中で、自分でも素晴らしい製品を生み出すことができるのだ、といったことを証明するための自己実現に苦しみ、そしてもがきながら、現在の成功を勝ち取ったジョブズ氏の軌跡を見事に描いています。
自ら口説き、CEOとして迎え入れたスカリー氏からApple追放の憂き目にあい、NeXTそしてPIXARに私財をなげうち、迷いながら踏ん張り、栄光を勝ち取ったのです。
Apple追放の一部始終は、本著にも詳細に描かれています。一見すると最後のあがきともとらえられる行動を取っていますが、”Apple創業者”といった自負のもとでは、当然の行為であったかもしれません。
NeXTそしてPIXARでの踏ん張りは、自己存在証明の踏ん張りではないでしょうか。本書を読むと、ジョブズ氏の叫びが聞こえて来るようです。
後から振り返れば、Apple追放は、ジョブズ氏の成長のための試練への旅であったことがよく分かります。いまのAppleの成功を導くための試金石であったことがよくわかります。
本著でも繰り返し語られていますが、ジョブズ氏は本来ハードウェア主導の人でした。ハードウェアは、人間の手が触れることでも重要ですが、さらに重要なのはソフトウェアでした。
NeXTでは、ハード嗜好がたたり、当初目標よりも大幅に販売価格がアップし、初代のNeXTはまったく売れませんでした。
ジョブス氏がNeXTで手に入れたのは、NeXTStepという、今のMacOSのもととなるObject指向のOSでした。これはiOSにも引き継がれています。
PIXARでも、最初はPIXARが所有していたハードウェアに興味がありました。しかし、ジョブズ氏が手に入れたのは、ハードウェアから生み出されたエンターテイメント・コンテンツでした。
今から振り返ると、NeXTとPIXARでの苦渋に満ちた日々(私財を食いつぶし、その一方で伴侶と愛する家族を手に入れたジョブズ氏でした。)が、今の成功の素になっていると言えます。
おいらが、よく分からなかったのが、あのAppleが何故にiPodを製品化したかでした。もともとオーディオ機器や音楽ビジネスにも手を染めていたSONYであれば、さもありなんですが、まったくのコンピュータメーカが音楽機器に手を出した理由がよくわかりませんでした。
ただ、この本を読んでわかりました。
ジョブズ氏も早い時期から、インターネットの大きな可能性を察知しています。
この”インターネット”というキーワードから、iTunesを立ち上げ、2001年のMacWorldでのKey Note Speechで触れられている”デジタルライフ”を展開したのです。
MacPCをデジタルハブとして、デジタルコンテンツを統合するハブとして位置付けています。”デジタルライフ”といった着眼点は、インターネット時代を迎える上で、非常に需要な着眼点です。
Appleの成功も、このインターネット時代の時流にうまく乗ったからこその成功なのです。
2001年のMacWorldのKey Note Speechのビデオがあります。

このビデオを観ると、ジョブズ氏が的確に時代の流れを読んでいることが分かります。
1976年から1979年はPCが誕生を迎える先史時代。1980年から1994年は、PCの第一期黄金時代。主に生産性の向上が主眼となっていました。1995年から2000年は、PCの第二期黄金時代。インターネットの時代が花開きました。
そして、2001年以降は、PCの第三期黄金時代。デジタルライフスタイルの時代へ向かうと宣言しています。このデジタルライフスタイルの時代にあって、Macが”デジタルハブ”としての機能を果たすと言っています。
このデジタルライフスタイルの時代にあって、Appleは、ハードウェア、オペレーティングシステム、アプリケーション、インターネット、マーケティングを統合したソリューションを提供できる唯一の企業であるとも言っています。
ジョブズ氏は、デジタルライフスタイルのソリューションとして、まず身近にある音楽をそのターゲットにしたといえます。
音楽がデジタル化したことによって、デジタル機器(軽量小型)への親和性が増し、デジタル化したことによって、インターネットとの親和性を増しました。そしてジョブズ氏は、デジタルライフスタイルを演出するiPodを誕生させたのです。

この本は2005年のマックワールドで幕を閉じますが、Appleがさらに爆破的に成長するのはこの後です。
二年後の2007年にはiPhoenを発表、2010年にはiPad発表と、”デジタルライフスタイル”の変革に突き進んでいるのです。
本書の最終章にも書かれていますが、”スティーブ・ジョブズはデジタル時代のすぐれた伝道者”なのです。そして、今の時代を象徴する”iCON”でもあるのです。