スティーブ・ジョブズの王国

スティーブ・ジョブズの王国”読了。マイケル・モーリッツ著、青木榮一氏訳、林信行氏監修・解説である。原題は”Returne to the Little Kingdom”である。

スティーブ・ジョブズの王国 ― アップルはいかにして世界を変えたか?

スティーブ・ジョブズの王国 ― アップルはいかにして世界を変えたか?

本著は、本の帯にも書かれてある通り、”創業の全記録”である。Appleの創業からPC市場にIBMが参入するまでが描かれている。IBM参入後から現在に到るまでの情景は”増補版エピローグ”として追加された章に詳しく書かれてる。最後の解説は、林信行氏が担当している。
パーソナルコンピュータの市場が立ち上がるまでの黎明期の状況も描かれており興味深い。
ウォズニアックのやんちゃぶりや、今のジョブズからは想像できない若かりし頃の言動もきちんと描かれている。ジョブズも悩める青年であったのです。
この本を読むと、やはりAppleが会社として大きくなれたのは、AppleIIの成功であることが分かる。その成功の源となったのは、AppleIIの製品の魅力であり、AppleIIをほとんど一人で設計してしまった、ウォズニアックの功績が一番大きいであろう。
会社が大きくなる過程で発生する組織のひずみも、Appleは経験している。事業拡大に伴い、新し人員を雇い入れる必要がある。当時はヒューレットパッカード、ナショナルセミコンダクターやインテルから人員を確保していたが、その人員間で派閥が形成されたりもする。出身企業の文化を押し通そうとするわけだ。もうひとつは、Apple創業当時からいる社員と新しく入ってきた社員との軋轢である。
このような状況をうまくまとめるのに、当時のCEOであったマイク・マークラはさぞかし大変であったろう。
AppleIIが消費者に熱狂的に受け入れられた状況も描かれいる。何か今のAppleが新製品発表をするたびに世間が熱狂している状況を彷彿とさせるものがある。Appleとは今も昔も人々を熱狂させてしまうことに変わりがない会社なのだ。
”増補版エピローグ”の章は、IBM参入後から現在に到るまでの、Appleの軌跡が描かれいる。この章と林信行氏の解説を読むだけでも価値があります。
”増補版エピローグ”の最後にも書かれているが、気になるのはAppleの次期トップである。ジョブズ氏の後を継ぐにふさわしい人材がはたしているのだろうか。はたまた、ジョブズ氏のDNAが組織の隅々にまで浸透していれば、”ジョブズ流”が個々人に受け継がれていれば、誰がトップになっても大丈夫かも知れない。ただ、会社として突き進むべき方向は、きちっと示しておく必要がある。いまや、巨額のキャッシュ(400億ドルを越える)を保有しているAppleをすれば、どのようなビジネス展開も可能なはずだ。ただその方向を間違えることなく展開する必要があろう。
今後Appleはどのように変貌を遂げるのであろうか。興味が尽きないのである。
11月22日号の日経ビジネスが、”アップルの真実 ー ジョブズの天下はいつまで続くのか?”といった特集を組んでいる。この中で指摘しているのは、今やAppleの稼ぎ頭でもあるiPhoneのシェアがAndroidフォンの猛追を受けていることだ。米国では、すでにAndroidフォンにシェアを抜かれてしまった。それとAppleの強みである製品系列の少なさを懸念している。要は、ヒットが途絶え、一つの製品群がこけた場合、収益をカバーすることが難しくなるのだ。Appleはヒットを飛ばすことを宿命ずけられているのだ。Appleは常に世の中を変革することを求められているわけだ。Appleは次に何を変革するだろうか。
最近のニュースで気になるのは、Nwes Corpと組んで、iPad専用の日刊紙”The Daily"が配信されることだ。購読料も一週間で99セントと破格のお値段である情報が溢れはじめた時代の新聞価格iPad日刊紙「The Daily」登場か - News Corp.が100人体制の編集部を編成)。よくマードックと手を組めたものだ。これを足がかりに、Appleは(ジョブズ氏は)メディア業界を変革するのだろうか。