電子書籍の時代は本当に来るのか。

歌田明弘氏の”電子書籍の時代は本当に来るのか”を読んだ。

電子書籍の時代は本当に来るのか (ちくま新書)

電子書籍の時代は本当に来るのか (ちくま新書)

かつての電子書籍ブームの失敗を見据え、今回の電子書籍化の流れが、ブームで終わるのかどうかを分析している。全般的にうまくまとまっています。この本を読んでいて、過去に確かに電子書籍ブームがあったこを思い出した。10年ほど前からだろうか。その都度電子書籍向けの端末が思い出したように発表されていたように記憶している。
それでは、なぜいままではブームで終わり、今回はブームで終わることがないのか。
電子書籍が普及するポイントして、著者は以下の5点をあげている。
①読みやすい端末
②魅力的なソフト
③多様な電子書籍が流通する仕組み
④読者が多様な電子書籍と出会える仕組み
⑤使いやすい課金プラットフォーム
それでは、この5点を、現在はクリアーできるのだろうか?
まずは、読みやすい端末。これは、Kindleに代表される電子インク版の端末や、iPadに代表されるマルチメディアリーダタイプのものがあり、十分にクリアーされる。
次に魅力的なソフトであるが、これはまだ今後の期待するところだ。電子書籍といっても、その範囲が広く、単純に紙の出版物をテキスト化したものからコミックや雑誌等その表現すべき内容によって魅力的なソフトになるどうかの工夫がされるべきである。まだこれは途上の段階だ。
次に、流通する仕組みであるが米国では、AmazonAppleGoogleが流通網を構築しており問題ない。日本ではどうかというと、まだこれからだ。独自の流通網を作るべきなのか。独自の流通網を作った場合、世界への発信ができるのか、ちょっと疑問だ。日本国内に閉ざされた流通網になってしまうのは困る。コミックや雑誌類(特にファッション雑誌)は世界に発信してもいいのではなだろうか。
次に電子書籍と出会える仕組み。これは、流通網の構築と関わってくる。読者はどうやてって電子書籍の存在を知るのか。専用のポータルサイトの立ち上げや、スマートフォンでの露出による誘導だろうか。
最後に課金がある。課金の仕組みは重要で、これも流通網の構築と一緒に検討すべき課題だ。
ざっくり見ると、①と②はクリアーできそうだ。③、④、⑤はセットで構築しないとうまくいかない。AmazonAppleGoogleはうまく構築できる可能性があるが、日本の企業ではどうか。複数の企業が連合して臨まないとうまく構築できないと思われるが、そのなかで利害関係が複雑になってしまう可能性もある。
こうなると、電子書籍もまだバラ色ではない。やはり、対象となる書籍(コミックや雑誌も含む)の種類に応じて、その表現のしかたや発信の仕方も異なってくると思われる。

本文中でも触れられている、Googleブックスを覗いてみた。ちょっとまだ不満足だ。角川さんの”クラウド時代とクール革命”が掲載されていると思いきや、さすがに全文の掲載は無理で、途中かなり抜けがある。抜けがあるのはしょうがないにしても、この抜けを誰がどういう基準で判断したのだろうか?ちょっと中途半端だ。それよりも、レビューが充実していたほうがありがたい。それと目次がのっていれば十分かもしれない。
雑誌系は、当時のカルチャーを知る上で非常に貴重である。それに広告欄とかも見ていて楽しいのだ。雑誌系は電子化が非常にフィトするのではないでしょうか。

電子書籍が爆発的にブームになるかどうかは別としても、書籍の電子化は文化の保存と万人への発信という意味で重要である。書籍の電子化という作業は、文化の保存と発信という意味で、現代では避けて通れないものなのだ。
本文中でも触れられている長尾氏の電子図書館構想は重要だ。書籍の電子化は、やはり国家の事業として取り組むべきである。著作権の問題もあるが、書籍の電子化はおそらく皆賛成で、その課金をうまくすれば解決することなのだ。紙の出版物のいくつ先は絶版本への道なのだ。それを回避できるのが電子化なのである。
長尾氏の電子図書館構想の図を引用しておきます。

長尾氏の講演がUSTREAMで視聴できます。世界ICTサミット2010「電子図書館と本の流通」
この講演のなかでも、Googleへの言及があります。Googleの目指すものとその危険性に触れています。Googelが世界最大の書店となった場合、Google書店に登録されていない書籍は、この世の中に存在しないことになってしまう。ただ、この巨大なGoogleに太刀打ちできる企業がおそらく日本国内にはない。このため、国家の事業として取り組むべきである、と言っています。同感ですね。
長尾氏はさらに、知識のネットワークを構築し、あらたな知識の創造を目指しています。これも重要なポイントです。紙の本は本単体でしか知識を汲みとることしかできませんが、電子化された書物は、本単体のみではなく関連したキーワードをもとに電子化された書物を横串に検索できます。このため新たな知の連環が構築されていくわけです。書物を横断的に再構築できるわけです。
書籍の電子化は、爆発的なブームになるかどうかは別として、日本が今後の世界で生き延びていくためには、どうしても必要な作業でなのです。