ARはどこに向かうのか?そして3D TVは消滅する。

ARの全般を知っておきたくて、”AR<拡張現実>入門”を読んでみた。入門書として、ポイントがうまくまとまっています。

AR〈拡張現実〉入門 (アスキー新書)

AR〈拡張現実〉入門 (アスキー新書)

■ ARとは何か?
この本の冒頭にも紹介されていますが、AR(Augmented Reality)を、ここまで流行らせたのは”セカイカメラ”でしょう。
おいらも、iPhone向けにリリースされた時に、早速インストールして使いました。当時は、(といっても一年ほど前ですが。今や、Version 2.4.2まで進化しています。)リリースされたばかりだったので、この界隈にはあまりエアタグも浮いていませんでしたが、いまやたくさんのエアタグが浮いています。最初の印象は空間の中に、投稿されたメッセージや写真がぷかぷかと浮いていて、まことに奇妙な感覚でした。この奇妙な感覚というのは、iPhoneの画面を通して周りを見渡すと、風景の中に、情報があっちこち埋め込まれているからです。当然のことながら、実際の風景にはそんな情報は埋め込まれていません。でもiPhoneの画面を通すと、埋め込まれた情報が浮かび上がってくるのです。”セカイカメラ”は、情報を空間の中に記憶させることができるのです。
おいらも最初エアタグを投稿したときは、”今ここに私がいた”あかしをこの世界に埋め込んだのだ、といった感慨を持ちました。情報を埋め込む行為は、”その時の私”をその実際の空間に停め置くことなのです。自己の存在を、あの場所に刻み込むことなのです。
さてさて、セカイカメラは、具体的にはこんな感じです。

それでは、ARとはどのようにして実現できるのでしょうか?この本では、現在もっとも普及している3つの方式が紹介されています。
マーカー式は、認識のベースとなるマーカーをもとに、情報や仮想のCGを実際の画面に重ね合わせます。
”電脳フィギュアARis”がマーカ式としては画期的です。このアプリは、一方的に仮想のCGを表示するだけでなく、利用者が仮想CGとインタラクティブに遊べるところがスゴイです。こんな感じです。

こんなこともできます。

マーカーレス式は、認識のベースになるマーカなしに、映像の中から特徴となるポイントを抽出し、情報や仮想のCGを実際の画面に重ね合わせていきます。
センサー式は、セカイカメラにも採用されていますが、GPS地磁気センサーや加速度センサーやジャイロセンサーを利用して、端末の位置や向きや移動方向を検出し、情報や仮想のCGを実際の画面に重ね合わせます。

いまや、多くのARサービスやアプリが世に送り出されていますが、この本でも、やはり懸念事項として、プライバシー問題を上げています。
例えば、誰もが特定の場所に情報を書き込みことができるわけですから、当然有益な情報も書き込まれますが、そこに悪意があった場合、特定の人物を誹謗する情報も書き込めてしまいます。
ただ、ARの可能性は非常に大きいので、このマイナス面だけを強調し、規制が入るような状況は避けるべき、と本書でも書かれています。規制が入ることを避けるための例として、協議会の設立やリスクを回避する仕組みをアーキテクチャに組み込むことがあげられています。ほんとにそうですね。規制が入るべきではありません。インターネットも規制が入る前に爆発的に普及し、今に至っています。ARを活用した産業に規制が入ることをは、是非とも避けるべきですね。
本書の最後には、インタビューも掲載されています。濱野智史氏のインタビューがいいですね。濱野氏は、”Augmented Reality”ではなくて、その発展の先には、” Augmented Society”があると言っています。現実を拡張することの先に、ARによるコミュニケーションが発展していくとみています。その通りかもしれません。ARがコミュニケーションツールとして発展していくわけです。

■ ARはどこに向かうのか?
今のARサービスやアプリを大別すると、ざっくりと2種類あるのではないだろうか。
電脳フィギュアARisに代表される、実空間にCGを重ね合わせたもの。そして、セカイカメラに代表される、実空間に情報を埋め込んだものだ。
a)実空間に今存在しない”もの”をあたかも存在しているように認識させるウィンドウ。実空間に仮想の空間を重ね合わせるウィンドウ。
b)実空間に今存在しない、別の次元を付加するウィンドウ。実空間に情報を重ね合わせるウィンドウ。
パターンaの発展型は、仮想のCGがリアルな世界で勝手に動き出すことだ。仮想のCGは、利用者の意図に拘束されることなく、あたかも勝手に、自己に意識があるごとく行動していく。
パターンbは多くの可能性を秘めている。位置と時間に関する情報のつながりを、空間に閉じ込めることができる。そして対峙する個人にも情報を埋め込むことができる。
Augmented Societyとは、埋め込まれた情報を媒介として、新しいリレーションが生み出されることを意味する。空間に埋め込まれ情報や個人に埋め込まれた情報を媒介として、コミュニケーションの連携空間が生まれていくのだ。
拡張現実とは、人間自己の機能を拡張するもの(自己要因の拡張)と、人間外部の機能を拡張するもの(外部要因の拡張)がある。ここに、”個”とのコミュニケーションというキーワードを埋め込むことによって、”個”で完結してしたARを、もっと連動的な、ソーシャル的なツールとしての可能性が拓けていくのでがないだろうか。

■ そして3D TVは消滅する
何で、3D TVをこの場の話題にしたかというと、3D TVは結局TVのメジャーな立ち位置にはならないことを言いたかった(予言いやいや予測したかった)ためである。
3D TVは、あたかもリアルに見える画像が、目の前に現出したかのうように認識される。一見、拡張現実ぽっくもみえる。
TVは、まだまだメディアの中心にいるのだが、3D TVはいずれ消滅するだろう。理由は簡単だ。3D TVはあくまで現実に近づく手段であって、決して現実を越えるのもではないからだ。残念ながら、3D TVは、あたかもの世界が、現実っぽくみえることに過ぎないのだ。3D TVは現実を越え、現実を拡張するものではないのだ。もの珍しさはあっても、現実を越えることがないので、いずれ消滅する。