発明マニア

”発明マニア”読了。米原万里さんの著作である。

発明マニア (文春文庫)

発明マニア (文春文庫)

米原さんの著作は、前から気にはなっていたが、なかなか読む機会がなかった。面白そうなのだが、何故か手がでなかった。この著作も、大分前に単行本で刊行されており、当時この”発明マニア”とういう題名にそそられて、購入して読もうとしたがちょっと躊躇して止めた。今回文庫本で手軽な価格になったので即購入した。
米原さんの著作は、題名が凄いと思う。一番最初に気になった本は、”嘘つきアーニャの真っ赤な真実”である。これも未読であるが、この題名だけで想像力が膨らんで行く。よく嘘をつくアーニャであるが、その底に、他人がはかりしえない真実が潜んでいるのだ。それは、誰もが想像することもできないような、真っ赤な嘘のような本当の話。その、真っ赤な嘘のような本当の話とは一体何なのだろう。”アーニャ”という名前からすると東欧の女性がイメージされる。東欧というと、それほど経済的には豊かではなく、寒い日々が続くが、誰もが家族を愛し真摯に生きている、といったイメージがある。ただそのような環境の中で、どうしてもつかなければならなかった嘘があったのかもしれないし、つらい生活の日々の中で、嘘のような本当の話があったのかもしない。この題名が意表をついているが故に、何が綴られているのかといった想像が、どんどん湧いてくるのだ。
さてさて、”発明マニア”に話を戻しましょう。この本には、発明好きの米原さんが、日々の中で思いめぐらした発明の数々が綴られている。全部で119も発明があるのだ。この本の成功は、このテーマのうまさにある。日々の中のちょっとした発明がテーマであるが、”発明”を通して政治や文明批評にもなっている。そしてそこから、作者が日々のなかで何を思いめぐらしているのかといったことが伝わってくる。
おいらが気にいったのは、一番最初の”夢送り装置”だ。これこそ、世の中から戦争をなくす、待ちこがれた発明なのだ。2話目も傑作。男性なら思わずにやりとしてしまうかも知れない。発明に至る前段で語られている、ロシアへ訪れた会社のお偉さん達のトイレエピソードが傑作だ。
そうは言っても、よくも119話も話が続いたものだ。
全般的には、戦争、ペット、環境の話題が多い。その中で、反戦争に関する”発明”に傑作が多い。戦争を終わらせるための発明が多く書かれているが、印象に残ったのは、28話である。これは発明ではないのであるが、「テロとの戦い」を学習できるオンラインゲームを体験したときの話。ゲームをする人は、テロリスト撲滅の為に、テロリストをどんどん攻撃していく。ただ、テロリストを攻撃するとテロリスト以外の民間人も巻き添えに合う。その遺族の中から、テロリストががどんどん増えて行く。そしてこの”テロリスト撲滅”のゲームは終わることがないのだ。ただ、米原さんはこの”果てしのない戦い”を集結させる方法を発見した。その方法は、この28話の最後の行に書かれている。それは、この現実世界でも試してみたい方法でもある。
下ねたものでは、71話が傑作。あのローマ法王ヨハネ・パウロ二世とマザー・テレサの恋愛エピソード?である。読んでいて、思わずほんのりと笑ってしまうのだ。最後にオチがあるものの、語り口がうまいので、ローマ法王がしでかした行為がリアルに目に浮かんでくるところが凄いです。

米原さんは2006年5月25日に亡くなられている。驚くことに、最後の119話が亡くなる直前まで書かれていることだ。すごい執念だ。119話の日付は、2006年5月21日である。(おそらく連載されていた『サンデー毎日』の発売日と思われる)。書き続けたいといった思いの強さを感じる。
ここで、ふと思ったのであるが、”発明マニア”は、第119話まで書かれている。”119”という数字は救急呼び出し番号だ。書き続けたいという思いもあったが、もはやここまでとの思いもあったのだろうか。