ライフログのすすめ

ゴードン・ベル&ジム・ゲメル著 "ライフログのすすめ" を読んだ。
恥ずかしながらゴードン・ベルという人が、どういう人物かよく知らなかった。(並列計算技術の開発に寄与したプロジェクトやメンバーに与えられるゴードン・ベル賞の創設者。コンピュータのクラス形成の進歩を唱えた ベルの法則を提唱したご本人である。)
この著作を読んで、新ためてこの人はすごいと感じ入った次第です。
ビル・ゲイツが序文を提供するのももっともである。
著者は、いまマイライフビッツを実践しており、その実践の中から様々なアイデアをこの本の中に著している。
ライフログの流れは、現代の技術進歩の方向として必然の流れなのかもしれない。その一番はデジタル化の流れと、進化し続けるストレージデバイスだ。デジタル化により情報が全て一括りに表現できるようになった。音楽、画像、動画、出版物と人間の作り出す多くのものがデジタル化に向かってきた。
そして、そのデジタル化された情報を蓄積するストレージデバイスが、その容量の増大とコスト低減を劇的に進歩させたおかげで、記録すること、即ちビットのコストを劇的に下げたのだ。
ライフログと言っても、そのシチュエーションにより、そのアプローチも異なる。仕事のフェーズ、健康のフェーズ、学習のフェーズ、そして未来へのフェーズがある。
仕事のフェーズでは、知識の集積と整理が一番重要である。そしてもっと進化させるには、システムにユーザーの状態を理解させることが重要である、と述べている。
その好例として、カスタマーサービスの業務を上げている。カスタマーサービスの部署専用の記憶があれば、業務改善がかなりできるに違いない。
これは非常にいいアイデアだ。サービス対応の質が一定に保たれるし、対応の質も上がる。それに対応時間も短縮される。
次に、健康のフェーズがある。今後もっと発展すべきは健康のフェーズであろう。
"健康管理の質を上げるには、質のよい情報が欠かせない。" のであるが、いまの世の中を鑑みても、健康管理については、質のよい情報がないのが実態だ。例えば、医者に行った時のことを思い出して欲しい。診察の前に問診票を記入するが、内容については自分の記憶をたどりながら、かなり個人の感覚のみで記入せざるを得ないし、医者との対面の問診でも同じだ。医者にかかるまでの正確な記録が無いので、個人の記憶と感覚に頼ざるを得ない。いつも思うのだが、医者との会話は非常に原始的だ。お互いの感覚でしか、症状を伝える事しかできない。
もっと社会的な面からいうと、著者も以下のように述べている。
"個人の健康データを共有することで、驚くほどの恩恵がコミュニティーにもたらされる。個人の健康記録を一定の人口規模で集めれば、大規模な疫学研究にとって計り知れない価値がもたらされる。健康と土地の位置データとの相関関係をもとにしたら、疫学研究でどれほど大きな一歩が踏み出せるか、誰もわかっちゃいない。"

これはコレラの感染経路と水の供給経路が関連付けられ、コレラの解明が飛躍的に進んだことが実例としてある。
以前のブログで喘息患者の体調を記録するAsthmaMDというアプリを紹介したが、これも患者のデータを蓄積することによって、類似の症状を持つ患者の傾向から、発作の警告を患者に通知したり、地域別の発作の傾向から、その地域の大気汚染状況や発作と天候の関連性を分析することを目的としている。
健康情報を記録し共有することは、社会的な意義がかなり大きい。

学習のフェーズでは、より個人の能力や興味にあった方式が進歩していくであろう。全ての人に家庭教師がついているようなものだ。
また学習についても、サポートされるツールによって、より深い理解と創造が勝ち取れるのではないか。
ブッシュ(大統領のブッシュではない。連邦科学研究開発局の局長だった、ヴァネヴァー・ブッシュである。)の思い描いた科学者の学習が理想だ。資料を集め、整理し、リンクをつくり、メモを加え、大まかに全体をとらえる。その一部を呼びだし、新しい発想を生み出す。
収集、整理、関連付け、追加情報、全体把握、新しい関連性の発見、という一連の流れがある学習だ。

最後は、未来へのフェーズである。これは非常に個人的な領域であるし、突き詰めると自分とは何なのかを問う作業でもある。
デジタル記録により、自分を未来へと残す訳であるが、デジタル化による不死には四段階がある、と述べている。
一つ目は、古い素材のデジタル化。
二つ目は、新たな素材のデジタル化。
三つ目は、双方向性の実現。実際にやりとりする能力。
四つ目は、時間をかけて学び変化するアバターの実現。

一つ目はと二つ目は、誰でも納得できるだろう。これは日々の出来事を記録しておくことだ。日々の出来事を写真で記録したり、その時の思いをツイッターしたり、ブログに書いたりとか、今では多くの人が実践している。
三つ目と四つ目は、だんだんSFチックになってくる。でも実現可能な範囲にはある。
ツイッターやブログの内容を分析して、興味のある範囲やその思考パターンを抽出して、相手の問いかけに対し、Googleの膨大な情報ソースとリンクさせて、それっぽい問い返しも可能なのではないだろうか。

ただ、ここから先は、おいらにもどのような世界が人々に望まれるのかわからない。
これは、皆で考えて行く必要があるのだろう。

おいらの記憶を埋め込まれたアンドロイドは、 ”おいら” なのか。それとも全くの別人なのか。
先祖との会話もいいが、がみがみ親父にまた怒鳴りつけられるのも困っちゃうしな。

そうそう、巻末の注釈と出典も内容が充実してます。この注釈と出典については、また別の機会に書こうと思います。

本はこちらです。

ライフログのすすめ―人生の「すべて」をデジタルに記録する! (ハヤカワ新書juice)

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