日本のメディア業界の行く末

”次にくるメディアは何か”(河内孝著)を読んだ。非常に興味深い本です。
冒頭にGoogleのデータセンターの描写が出てくる。
無人の格納庫にある膨大なサーバ群が、世界中からインターネットを通じて情報を収集している。無人のその世界を、人々が創り出した情報が血脈の如くサーバの中を駆け巡っているのだ。その膨大な情報量には、目が眩むばかりだ。
そして、インターネットは、情報の伝達手段を、これまで専有してきた新聞、TV、出版社から、個人にその手段を解放したのであ。

2000年以降のアメリカの新聞の広告収入の減少ぶりは凄まじい。2000年をピークに2008年は半減している。収益の70%以上を広告収入に頼っているアメリカの新聞社が、次々と廃業に追いやられるのも無理はない。

一方、日本の新聞業界はどうかというと、アメリカとは収益構造が異なるが、さらされている状況は同じだ。日本の新聞社収益構造は、広告収入が30%程度、販売収入が50%以上、残りは出版等の事業収入となっている。
ただ、粗利益は広告収入が一番で、やはり広告収入の減少が一番経営にひびく。広告収入の減少の流れはアメリカと同じで、著者はいずれ全国紙の5社体制は崩れ去ると予想している。
TVの広告収入は横ばいであるが、新聞社の減収分を系列TV局がカバーするのは非常に難しい状況のようである。

そして、デジタル化の波が押し寄せる。
まずは、法規制の改正だ。

おいら、驚いたのだが、日本の法規制は、放送と通信の二本立てとなっているのですね。放送と通信の生い立ちを考えると致し方ないことであるが、今の世の中の実情からすると、そぐわない。
新たな法体系は、
通信と放送を一括りにして、コンテンツ、伝送サービス、伝送設備を横串として、法の整備を行うと言うものだ。下図参照(総務省資料から引用)。

この通信と放送の融合を目的とし、総務省情報通信法(仮称)を2009年6月に答申したが、残念ながら業界の反発をくらった。
放送設備と番組の制作事業を分離し、個別の行政手続きで認定することに反発が相次いだ。
これは、番組内容に政府がこれまで以上に介入する事を嫌った結果である。と、表向きに弁明をしている。放送局は番組(コンテンツ)とそれを電波にのせるための放送設備を有しているがために、大きな権益を持っている。番組制作と放送設備の事業が分離されると、放送業界はいままで持っていた権益を失うことになるのだ。
2009年8月の答申では、コンテンツは放送法を核に、伝送サービスは通信法を核に検討する事となり、情報通信法の一本化にはならなかったが、コンテンツ、伝送サービス、伝送設備という三つの機能を水平分業する構想は残った。
これにより、放送業者と通信業者が双方に乗り入れができる事となった。
法改正の目的は全面的には達成されなかったが、最低ラインは実現できた。
著者は、アメリカのようなメディアコングロマリットではなく、「メディア・インテグレーター」を日本の生き残り戦略としてあげている。下図参照(経済通産省資料から引用)

テレビ、新聞、出版社が機能を、金融機関、商社、電機、通信大手などが人材と資金を提供するグローバルな複合体である。
今後、日本のメディア業界が再編されていくであろうが、通信キャリアが再編成の核となる理由を、その資本力と技術力としているのは、達見である。
また、各業界を巻き込んだ提携となるので、一気に業界の勢力図が変わることも予想される。
日本のメディアコンテンツを、どしどし世界に発信するために、強力な再編を望む。

尚、著者のコラム”メディアの革命”マイコンジャーナルに掲載されています。こちらもすごい。2010年2月8日付けで46回目を迎えているコラムです。


次に来るメディアは何か (ちくま新書)

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