iPadに隠されている脅威

iPadが発表されてから、かれこれ一週間が過ぎようとしている。
iPadの評判は、賛否両論である。発表当日は、おいらも深夜に起き出して、発表のニュースをインターネットで追いかけていた。発表前から囁かかれていたものに比べると、搭載されている機能が少なく、正直なところちょっとがっかりもした。
そんな思いを抱きつつ、AppleのHPにもあるKeynote speechをじっくり見て気づいた事がある。
iPadって結構やばい『もの』なのではないか。ここで、かっこ付きにしたのは、iPadをなんと表現すべきか思いつかなかったからだ。コンピュータ?と言うにはちょっと違う。電子ブックリーダ?だけではない。ゲームマシン?それだけではない。
このiPadは、今までのカテゴリーからすると一言で表せない代物なのだ。

KeynoteのDemoを見ても分かるとおり、デモアプリがどれもこれもスムーズに動作している。おいらのiPhoneは、まだ3Gなので、それほどサクサク動かない。それに比べ、DemoのiPadは、なんとスムーズに動いていることか。
CPUは、確かARMのはずであるが、この画面サイズでも、スムーズに動作するほどCPUパワーってあったっけ。

どうも気になり、ウェッブで調べてみた。

搭載しているCPUは、A4とよばれている。A4はARM Coretex-9をコアとしている。なんとCPUは4coreだ。
4core!! Intelの最新のCorei5やCore i7と同じではないか!

それもバッテリー駆動で10時間ももつのだ。MacBookは、7時間しかもたない。
iPadの実物がないので動作スピードがどのくらい違うのかわからないが、Demoを見る限り、動作スピードは十分に耐えうるものである。

iPadに隠された最初の脅威は、Intelに対する脅威である。
ご存知の通り、IntelはCPUチップのNo1企業である。CPUの高速化とパワーアップに突き進んできた。それは企業の使命として当然の行為である。われわれユーザも、より快適なPC環境を求め、それを歓迎してきた。
CPUのクロックスピードがブランドとなり、一途にクロックスピード向上に邁進してきた。2000年に突入するとそれが限界に達する。消費電力の壁に突き当たったのだ。クロックスピードを上げると当然のごとく、消費電力が増加する。消費電力が増加すれば発熱も増す。発熱を放熱しなければ、CPUが物理的に破壊してしまう。まるで自分の体重を支えきれなくなった巨人のようである。Intelは、Pentium4 のシリーズからクロックスピードによるブランド戦略を止めてしまった。BMWのシリーズナンバーのような呼び方に変更してしまった。それでも、企業の使命としてCPUのパワーアップに邁進し続けた。
この対極あったのが、低消費電力化を優先したARMの陣営である。
低消費電力を実現するには、単純にクロックスピードを落とせば良い。低消費電力を優先するために数年前だと数百MHz程度までしかCPUクロックをアップできなかった。
今では、LSIの微細化プロセスの発展により、低消費電力を実現しつつ、クロック数は1GHz程度までアップできるし、マルチコアにより、更なる性能アップが実現しやすくなってきた。
そして、iPadのデモによって、ARMのようなチップでも、十分な処理能力があることが証明されたのだ。

これがIntelへの脅威となる。

Intelは、UltraLowPowerCPUとしてAtomをリリースしたが、残念ながらまだARMコアチップの領域に達していない。CESでは、やっとSmartPhoneの採用機種を発表したばかりだ。
iPadに採用されたARMコアチップの実力からすると、大きく水を開けられた感がある。

iPadは、おそらく今後新たなDeviceとしてConsumer向けPCの市場を獲得していくと想像されるので、今この領域でシェアNo1のIntelにとって大きな脅威となるであろう。

iPadに隠された次の脅威は、MicroSoftに対する脅威である。

1月30日のブログにも書いたが、デモの中で一番興味をひいたのがiWorkのデモだ。
大画面の中で、マルチタッチインターフェイスによりiWorkが生まれ変わっている。
マルチタッチインターフェイスと一体になったことにより、より操作性が向上し、人間の頭の中で描く操作が、ダイレクトに反映されるのだ。
これは今までに無かったことだ。今までのPCでは、画面上に表示されたPowerPoinなりExcelに文字や図を書き込もうとしたら、マウスなりKBなりトラックパッドなりからカーソルを移動させて入力するしか無かった。それがiPadでは、画面にタッチするというダイレクトな操作でできてしまうのだ。人間の行動原理を考えると理にかなった操作である。
今までのPCでは、カーソルの移動を画面と離れたマウスをさらに物理的に移動させなければならず、人間の思考が、対象となる画面に集中されない。
iPadがそれを解決してくれるのだ。
iWorkは、iPadのマルチタッチインターフェイスと一体化したことによって、新たなツールへと大きく進化したのである。
MicroSoftは、Officeという”ソフト”しか提供していない。
タッチインターフェイスと一体化したOfficeは、まだ存在していない。
Keynoteによれば、iWorkiPad向けに、よりクリエイティブなツールにするよう数年前に指示している。
これからしても、今回のiWorkは、数年間のアドバンテージがある。この業界で数年間のアドバンテージは、大きい。
iPadiWorkのコンビネーションが、Officeのシェアを侵食していくであろう。
これが、MicroSoftの脅威となる。