またまたARに関する話題

小林啓倫氏の”AR-拡張現実”を読んだ。ARの現状とこれからのあるべき姿ををうまくまとめてあります。非常に参考になりました。

AR-拡張現実 (マイコミ新書)

AR-拡張現実 (マイコミ新書)

そこでちょっと気になるには、確か似たような技術として、VRVirtual Reality)が昔からよく耳にする言葉です。AR(Augmented Reality)とは、VRと何が違うのでしょうか。
VRは、人間の感覚を通して、あたかも現物が存在するような感覚を実現するもの、とでもいえばいいのでしょうか。あくまで人間の視覚や聴覚や触覚が中心であり、人間の感覚を通して仮想的に構築された世界なのです。(本書でも暦本教授の概念図を引用し、VRとは人間とコンピュータの間にのみインタラクションが発生し、現実の世界とのインタラクションは発生しない、と記載しています。)
ARは、現実の空間に情報を埋め込ませたもの、とでもいえばいいのでしょうか。人間の感覚が中心ではなく、現実の世界が中心となっています。その現実世界に、現実世界では表現できない情報を、現実空間に埋め込んだ世界なのです。(上と同様に、VRは現実の世界とインタラクションが発生する、と記載しています。)
ちょっと暦本教授の概念図を掲載しておきます。
こちらが、VRの概念図です。RはReal Worldの意味です。CはComputer Worldの意味です。これをみても分かる通り、人間はComputer Worldの世界に閉じ込められてままです。

こちらは、ARの概念図です。人間は、Computer Worldの世界を通し、Real Worldの世界を認識し、かつReal Worldに対しインタラクティブな行為を行います。

現実世界が主体であることと、その現実世界に対し新たな情報付加やインタラクティブな行為ができることが、ARの特徴であると言えます。
さてさて、現実の空間とはどのような特徴があるのでしょうか。
当然のことながら現実空間は空間であるので3次元です。即ち、ARは、3次元空間に情報を埋めることになります。
そしてもっと重要なのは、現実空間には刻々と流れ行く時間が存在します。現実空間には経過した時間が存在するのです。ARは、この経過する時間にも情報を埋め込むことになります。
現実世界の空間と時間に情報を埋め込むことが、ARの特徴と言えます。そしてもっと現代風にいうと、この埋め込まれた情報はインターネットと連携することによって、膨大な量の情報をも表現することができるのです。
また、埋め込まれた情報の種類によって、個人で楽しむものだったり、ビジネスとして活用したり、さらにソーシャル性を持たせることも可能となっていくのです。

本書の中では、ARを活用したアプリやビジネスや応用できるアイデアが多数紹介されています。いくつかピックアップしてみます。
■試着(インタラクティブ性)
オンライン・ショッピングの応用例です。米国のアパレルサイトTobi.comが提供しているオンライン試着の例です。この例は、ARとユーザのモーションによる入力や試着した写真を友達と共有できたりとインターネットの利便性をうまくミックスしており、大変ユニークです。

セカイカメラ
いま、もっとも有名なARアプリです。頓知・のCEOである井口氏の言葉が本書で書かれています。今、セカイカメラは、”SoLAR”というコンセプトのもと進化しているとのことです。”SoLAR”とは、ソーシャル(So)、ロケーション(L)、拡張現実(AR)の要素を統合していくことであるとのことです。

■落書き
タグディス”TagDis”という、iPhoneアプリが紹介されています。落書きを現実空間の壁に書き残すことができるアプリです。落書きもいいですが、様々なきれいな花とかで、大きな建物を包み込んでしまうようなアプリもあると面白いですね。

■街おこし
東急が実施した、渋谷での”ピナクリ”とよぶサービス。これは、ARによって現実空間を変えてしまおうとしたものです。これは、その場所に訪れた人の流れを変えたり、新しい価値の発見を提供し、現実空間にいる人々の行動に影響を及ぼそうとしたものです。これは渋谷に限らず、地方の街おこしの手段としても利用できそうです。

■都市ゲーム
”ララコレ”を使った”AR爆弾解除ゲーム”が本書では紹介されています。”AR爆弾解除ゲーム”とは、渋谷の街の中に埋め込まれた爆弾を解除していくゲームです。現実の空間に”宝探し”や”追跡”や”キーワード”といった情報を埋め込み、この情報を手がかりとして楽しむゲームは、いろいろなアプリが出てきそうです。
伝言板
真っ白な看板にARを使って伝言情報を書き込んで行く。このアイデアはいいですね。”真っ白な看板”は、注目を集めるし、書き込める情報は無限です。現実の看板にはできない、情報の多層化が可能です。これもARの大きな特徴ですね。

■プレミアムとしての埋め込まれた情報
プレミアム会員しか読み取れることができない情報。このアイデアも商品の付加価値として有効ですね。

また本書ではARのビジネス規模はまだ小さいが、今後大きく拡大すると記されています。ARを中心にしている会社の規模は現在も小さいものばかりです。この本で名前のでてくるメタイオ(metaio)という会社もおもしろそうです。この会社が提供するサービスのビデオがありますので紹介しておきます。

ついでにBloombergが提供する”Innovetors”という番組でもARが取り上げられています。ビデオもありますので紹介しておきます。


さてさて、こうみてくるとARには素晴らしい未来が待ち受けているようです。
但し、本当にARが成功すためには、本書のエピローグにも書かれていますが、”どのような空間を生み出したいのか。その為には何を『拡張』すればいのか”をよく考える必要があります。ARのためのARではなく、そのサービスによて、実際の人間の行動をどのように変えることができるのかを、目指す必要があるのです。